4th stage

オタクファッションしか持ってない

     4th stage


 昨夜は気持ちがたかぶってなかなか寝つけず、固い床の上でぼくは何度も、ヨシキの送ってくれた『おすすめプラン』を反芻はんすうしては、明日のイメージトレーニングに励んでいた。

それにしても、、、


   ーーーーー

10:00くらい出発

10:30~11:30 洋服下見 (原宿、渋谷辺り)

12:00~13:00 昼食(最寄りのファミレスでもいい ただし、彼女のリクエスト優先 連絡くれればサポ可)

          食事しながら服の相談

13:30~15:00 洋服&その他必需品購入

15:30~16:00 ティータイム (スタバとかドトールとか 原宿ならクレープもいい)

          今日の買い物の感想とか話す

17:00 帰宅   *ラッシュ前に帰る事

   ーーーーー


大雑把過ぎる!

おすすめのアパレルショップもレストランも書いてない。

ヨシキのやつ、考えるのがめんどくさくなって、テキトーに作ったんじゃないか?

文句のメッセを送ったら、新しいアドバイスが来た。


『細かい具体的なスケジュールでガチガチに固めてしまうと、変更になった時や彼女が違う事を言いだした時、融通が利かなくなるだろ。初心者はそれで失敗する。だから、最低限の方向性だけ決めて、あとは流れに任せろ』

「『流れに任せる』ってのができないから、こうやって相談してんだ!」

『とりあえず原宿池。割と安い厨房向けの店とかロリ系ショップが多い。JRを降りて竹下通りを通ってラフォーレまで歩けば、どこかヒットする店があるはず。

JKやギャル系がいいなら渋谷か109。H&MやFOREVER21は安いけどおとな向けだ。

午前中は栞里ちゃんの反応見ながら、気に入った店をチェックして、昼食後にまとめて買う方が効率いいと思われ。それから…』


その後はヨシキの、耳に痛いアドバイスが続いた。


『オタクな会話は最小限に。キバカジはやめとけ』

「キバカジ?」

『おまえがいつも着てる様なやつ。

チェック柄のネルシャツをダサいデニムにシャツインして、バンダナ巻いたりリュック背負ったりしてる様な、おたくファッション。アニメ柄のTシャツも絶対NG。一発ドン引き』

「、、、そんなのしか持ってない」

『朝いちでユニクロにでも行って、パンツとシャツ買って鯉』

「…了解」



 そして翌朝早く、ぼくは近くのユニクロに行き、開店と同時に店内に飛び込んだ。

いくつかの紙袋を下げて部屋に戻った時、栞里ちゃんは例によってスマホいじってて、朝っぱらから出かけたぼくには、興味なさそうだった。


「お兄ちゃん、まだ出かけないの?」

液晶画面を見ながら栞里ちゃんが訊いてきた。


あれ?

それなりに気にかけてくれてたんだ。

よく見ると、栞里ちゃんは昨日までのキャミソールにショーパン姿だったものの、さりげなくお化粧してるみたいで、目元ははっきりしていて、唇はリップでつやつや光ってる。

今までのすっぴんとは違って、微妙に色っぽい。

そのギャップにドキドキしてしまう自分。

ぼくは慌てて、買ってきたばかりの服を取り出し、タグを切り取って着替えた。

ようやくふたりが外に出たのは、もう10時半過ぎ。

出足から、ヨシキプランより30分以上の遅れ。


 駅まで歩き、電車に乗って移動。

なんだか気恥ずかしい。

ふだん着慣れたネルシャツにダボダボデニムじゃなく、襟元のお洒落なトップスに、ストレッチ素材のパンツ。

『これが脚長に見えて綺麗で、お薦めです。お似合いですよ』と、可愛い女性店員さんは褒めてくれたけど、ほんとにこんなでよかったのか? お世辞じゃないのか?

不安になってくる。

鏡に映る姿を見ても、全然自分じゃないみたいでなんか浮いてて、しっくりこない。

とりあえずヨシキに写メして、OKは出たけど、、、


 電車では、ぼくと栞里ちゃんは並んで立った。

付近にはビジネスマンや主婦、ショッピングに出かける女子高生なんかがいたが、何人かはこちらをチラチラと伺ってるみたいで、落ち着かない。

みんな、ぼくと栞里ちゃんを見て、どう思ってるんだろう?


恋人同士?

いやいや。

ぼくみたいなムサいオタク大学生が、こんな美少女を恋人にできるはずがない。

兄妹?

でも、ふたり全然似てないし、、、

きっと端からは、異様な組み合わせに見えるだろう。


目の前に座ってる50過ぎのおっさんと、隣に立ってるおばさんが不躾ぶしつけな視線で、ぼくと栞里ちゃんを交互にジロジロ見つめてる。

やっぱり不自然なのか?

まさか、栞里ちゃんが中学生だとバレて、通報されたりしないか?


いやいや。

そんな心配はない筈だ。

例え相手が未成年だとしても、いっしょに買い物に行くくらいで、逮捕されるわけないだろ。

もっと落ち着け、自分!


「し、栞里ちゃんはどんな服が好きなの?」

気を紛らそうと、ぼくは彼女に話しかけた。

彼女はちょっと考えてたが、逆にぼくに訊いてきた。


「お兄ちゃん。どんな服着てほしい?」

「え?」

「お兄ちゃんが買ってくれるんでしょ? だったら任せる」

「任せるって…」


言われても、困る。

ぼくには女の子ファッションの知識とセンスなんて、これっぽっちもないのに。


「リ、リズリサとか、姫系みたいなのはどう? 似合いそうだし」


丸々、ヨシキの受け売り。


「LIZ LISAか… まあ、好きだけど」

「そ、そう。よかった」

「お兄ちゃん、服のブランドとか詳しいの?」

「そ、そんな事ないけど」

「そのシャツ、似合うよ。今までのよりいい」 

「えっ?」

「今日のパンツもいいね」

「ほっ、ほんと?」


栞里ちゃんが褒めてくれた!

ぼくになんか興味ない様で、ちゃんと見てくれてたんだ!


『やった!』


心の中でガッツポーズ。

サンキュ、ヨシキ!


「や、やっぱり原宿とか出かけるんだったら、オタクなカッコできないし」


照れ隠しにそう言い訳したものの、滑舌はよかった。


「ま。原宿じゃフツーだよね」

「そうなんだ、、、」

「イラスト描く時とか、服のデザインはどうするの?」

「アニメとかゲームのキャラが着てるのをアレンジしたり、ネットでアイドルのファッション参考にしたり… かな」

「ふーん。ゲームキャラって、けっこうエロいカッコも多いよね」

「そ、そうだね」

「ガーターベルトって言うの? あれなんかエロ可愛い」

「だよね! ガーターベルトって、中世ヨーロッパの女性の靴下留めなんだけど、ニーハイソックスの絶対領域に通じるものがあるよね。それよりちょっとおとなっぽいっていうか、姫っぽいていうか。

成熟したエロティシズムで、ロリータ系に取り入れると、アンバランスな色気がかもされて、女の子の魅力を惹きたてるんだ。

ガーターベルトは脚フェチにはたまらない、マストアイテムだと思うんだよ!」

「…」


ぼくが喋ったあと、栞里ちゃんは沈黙した。

シラっとした、冷めた視線さえ感じる。


しまった!

自分の萌えを、思わず熱く語ってしまった!

『オタクな会話は最小限に』って、ヨシキの忠告が身にしみる。

ふつーの人にはオタ話をすると、ドン引きされるんだ、、、


やってもた、、、orz


つづく

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