いっしょに風呂には入れない

「ねえ。今日も泊まっていい?」

「え?」

「いいでしょ?」

「で、でも、もう帰らないと…」

「いいじゃん。泊めてよ」

「い、家の人が心配するし」

うちに『人』なんていないから」

「だけど…」

「ねえ。お兄ちゃんって、オタク?」

「はぁ?」

「机の上とかコレクションボードに、エッチなポースの女の子のフィギュアとかいっぱい飾ってるし、本棚はなんかいやらしそうなマンガばかりだし。

萌え絵、っていうの? マンガのポスターとか貼りまくってるし。

マンガとかアニメとか、好きなんでしょ?」

「ま、まあ… そうだけど、、、」

「ロリコン?」

「はぁああっ?」

「あたしくらいの年齢って、どうなの? ストライク?」

「な、な、なにを…」

「あたし、また犯されるのかなぁ?」

「おっ、犯されるって…」


唐突な展開についていけない。

栞里ちゃんはクスクス笑って、ぼくの側をするりと抜けて部屋に入り、ベッドに腰を降ろすと、Tシャツの裾からパンツが見えるのもお構いなしに、ポンポンと跳ねながら、冗談めかして言う。


「ただで泊めてもらうなんて、そんなの悪いじゃん。しかたないな…

いいよ。犯されてあげても」

「そっ、そんな事するわけないよ! 安心して。大丈夫だから!!」

「え? じゃあ、泊めてくれるの?」

「あ? いや、それは…」

「わ~い。ぃやったぁ☆」


栞里ちゃんは無邪気に両手を挙げながら、ひときわ大きくポンと跳ね、ベッドにコロンと転がった。

ん~~、、、

なんか、うまいこと操られてる気がする。


「と、とにかく、、、 家に連絡でも入れといた方がいいんじゃない?」


パンツ丸出しのあられもない少女の寝転びポーズに、目のやり場に困り、ぼくは視線を泳がせながら栞里ちゃんに言う。

家の事を口にしたとたん、彼女の機嫌はみるみる悪くなっていった。


「別に… いい」

「そうはいかないだろ? 家の人も心配してるだろうし、捜索願いとか出てるかもしれないし…」

「…」


彼女はベッドに顔を伏せたまま、なにも言わない。


「聞いてる?」

「…」

「栞里ちゃん?」

「…」


栞里ちゃんの側に歩み寄り、ぼくは彼女の様子をうかがった。

息をしてるのかどうかさえわからない彼女だったが、しばらくするとむっくりと起き上がって、顔をしかめながら言った。


「ねえ、お兄ちゃん。お風呂入ってないでしょ?」

「え? あ、ああ…」

「臭い」

「えっ?」


彼女の指摘にぼくは慌てて、Tシャツの袖をクンクンと嗅いでみた。

確かに、、、

昼間、書店の支配人に指摘された時より、さらに香ばしさが増してる。


「臭すぎ。近寄らないで。早くお風呂入ってきてよ」

「あ、ああ… ごっ、ごめん」


、、、どうして子供ってこんなストレートに、思ったことを言うんだろうか?

『臭すぎ』とか『近寄らないで』とか、、、

そんな残酷な台詞を美少女の口から聞くと、殺傷力が増すようで辛い。


クルリと寝返りを打って背を向けた栞里ちゃんを、複雑な気持ちで見下ろしながら、ぼくはクロゼットから着替えを出して、風呂に入る準備をする。


「栞里ちゃんは入…」

「もう入ったから」


全部言い終わらないうちに、背中を向けたまま、彼女は答えた。

ん~、、、

別になにかを期待してるわけじゃないけど、このドきっぱりとした拒否の態度は、へこむ。



 真夏の熱帯夜なので、お風呂は溜め湯にせず、シャワーですます事にする。

狭いユニットバスの中で、ぼくは頭からシャワーを浴びた。

ボディソープのポンプを数回押して、石鹸を泡立てる。


『お兄ちゃん。背中流したげようか?』


そう言いながら折れ戸を開けて、はだかのからだにバスタオルを巻きつけた栞里ちゃんが、バスルームに入ってくる。

幼さを残したからだのラインが、萌える。

バスタオルの上から感じられる、ほんのりと盛り上がった胸の膨らみは、まだ発育途中のものだ。

ぼくを風呂に入れたがったのは、そういう理由だったのか!


『あん。お兄ちゃんったら、栞里洗えないじゃない。もう~っ、しかたないなぁ』


ふざけてバスタオルを引っ張るぼくをたしなめ、ペロリと舌を出しながら、栞里ちゃんはバスタオルの前をはだける。

ちいさなおっぱいの上で、ほんのりピンクに色づいた乳輪が、ぷっくり膨らんでいる。パフィーニップルと言うやつだ。

おなかには脂肪が全然ついてなくて、縦に二本の筋がシュッと入り、尖った腰骨が皮膚を盛り上げている。

その下の、こんもりとした恥ずかしい丘は両手で隠しているが、指の隙間から若草の様なサラサラのヘアが、ちらりとのぞいている。


『お兄ちゃん、ここ、見たいの?』


いたずらっぽい微笑みを浮かべながら、栞里ちゃんはゆっくりと手をどけて、、、


、、、なんてのを妄想したけど、そんなエロマンガみたいな事は起きる筈もなく、ぼくはひとり寂しくからだを洗い、シャンプーとリンスをすませた。



「おなか空いた~! なにか食べたぁ~い!」


 風呂から上がって、ぼくが部屋に戻るのを待っていたかの様に、栞里ちゃんは飢えたひな鳥みたいに、口を尖らせながら訴えてきた。

テーブルを見ると、昼間渡した3枚の千円札は、そのままの場所にあった。

宅配を頼んだ様でもないし、冷蔵庫を漁った形跡もない。キッチンストッカーに入れてあった買い置きのおかしやカップ麺も、減ってなかった。


「もしかして栞里ちゃん、朝からなにも食べてないの?」

「ん」


彼女はコクンとうなずく。


「ピザのお金3000円、渡しといたじゃん」

「だって、なんか… 悪いし」

「え? なにが?」

「勝手に頼んだりしたら…」


なんか意外。

昼は『ピザが食べたい』だの『アイス買ってきて』だのと、あんなにワガママ言って、手こずらせてくれたのに、お金はおろか、うちのものになにも手をつけてないって…

いったいこの子は、なにを考えてるんだろう?


「じゃあ、ピザでも取ろうか?」

「わ~い! やったぁ!」


嬉しそうに栞里ちゃんは、ベッドでピョンピョン跳ねる。

注文したピザとサイドメニューが来るまで30分くらいかかったが、彼女は待ちきれない様子で、おなかをグウグウと鳴らしている。そういうとこはなんだか無邪気で可愛い。


「いっただきま~す!」


ピザやフライドポテト、シーフードサラダとジュースが、テーブルにぎっしりと並んだのを見てハイになったのか、栞里ちゃんは元気よく手を合わせると、またたく間にピザをペロリと平らげ、サラダもポテトもパクパクと食べてしまい、ぼくの分にまで手をつける勢いだった。

よっぽどおなかが空いてたんだな~。


つづく

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