美少女のアイスは舐められない

いた!


少女はベランダの隅っこで膝を抱えてうずくまったまま、右手にスマホを持ち、親指をせわしなく動かしてた。

液晶の冷たい光が無表情な彼女の顔を照らし、幽霊の様に浮かんで見える。


「い、いたんだ」

「…」

ぼくの声が聞こえないかの様に、彼女は視線をスマホの画面に落としたまま、メールかなにかを打ち続けている。それ以上話しかけられなくて、ぼくはじっと彼女の横顔を見ていた。


ふっ… ふつくしい、、、


絵師としてのさがか、少女の肢体の細部ディテールを、ぼくは脳内スケブにデッサンしてしまう。

その端正な横顔は、まだ幼さを残してるけど、伏せ目にしている睫毛が長くて魅力的。

唇はふっくらと盛り上がってめくれ、かすかに夜の明かりを照り返している。

肩にかかるサラサラのストレートヘアが、時々彼女の頬を撫でるのが、なんだか色っぽい。

だけど、小さな顔から続く細いうなじや華奢な肩、角張った鎖骨。膨らみを感じない胸と、大きなTシャツから出た皮下脂肪の少ない手足は、まだまだ女になりきってない『少女』のものだった。


「ふぅ…」


彼女は大きくため息ついて、パタンとスマホカバーを閉じ、こちらを向く。

黒目がちの大きな瞳が印象的だ。


「アイス。買ってきてくれた?」

「あ? ああ…」

「じゃ、持ってきてよ」


こいつ、、、 結構ワガママかもしれない。

そう思いつつも、ぼくは彼女の言葉に素直に従い、冷蔵庫から『ガリガリくんソーダ味』を取り出し、彼女に差し出す。


「え~~? ガリガリくん~? なんか子供っぽい。サイアク」


そう言いながらも彼女はアイスを包んでたビニールを無造作に破り、ベランダからポイと放り出す。

青い蝶の様にひらひらと、アイスの袋は夜空に消えていった。


「あの、えっと… 君の名…」

佐倉栞里さくらしおり


最後まで聞かず、少女、、、栞里ちゃんはアイスをペロペロと舐めながら、ぶっきらぼうに答える。

「あ。そ、そう… ぼくは、大竹稔。よ、よろしく」


真っ青なアイスをチロチロと舐め上げる、彼女の舌。

つやつやと濡れた栞里ちゃんのピンクの舌と唇が、なんだかエロ過ぎて思わず見とれてしまい、返事もしどろもどろになってしまう。


ダメじゃん自分!

14歳の少女相手に、こんな想像するなんて。

でも…

昨夜はこの子… こんな可愛い子と、、、 エッチしたんだよな?!

全然実感はないんだけど…


「佐倉さんはどうして、家に帰らないの?」


『家出少女なんじゃないか?』

という、ヨシキの言葉を思い出しながら、ぼくは訊いた。


「…」


少女は黙ったまま、アイスを舐める。


「さっ、佐倉さん…?」

「栞里でいい」

「え?」

「お兄ちゃんは、アイス食べないの?」

「あ、ああ。ぼくの分は、買ってきてないから…」


そう答えると、少女… 栞里ちゃんは、持ってたアイスを差し出した。


「あげる」

「え? いいの?」

「もういらない」


ほんとにぼくなんかが、貰っていいんだろうか?

栞里ちゃんの食べかけアイス。

美少女が口をつけた部分がトロリと溶けて、唾液と混ざってつやつやと光っている。

これは、間接キス以上の美味しい展開、、、


「いらないの? じゃ、いいや」


突然の出来事に感動して、食べかけアイスを受け取れずにまごまごしていると、栞里ちゃんはそれをベランダから、ポイと投げ捨てた。数秒後に“ペシャ”と、アイスが地上でへしゃげる音が聞こえてくる。


「ダっ、ダメじゃん、こんな所から捨てたら。ここ8階だよ。下は歩道なんだよ。誰かに当たったらどうするんだよ!」

「…」


なんというもったいないことを!

美少女の食べかけアイスが、、、


興奮していさめたぼくをチラっと一瞥いちべつして、彼女はうつむいた。

が、ポツリとひとこと漏らす。


「8階か、、、 ここから飛び降りたら、死ぬかなぁ」

「え?」

「8階なら、確実に逝けるよね」


そう言うと彼女は立ち上がり、ベランダのフェンスに手をかける。


「あっ!」


思わず声を発して駆け寄ったたぼくを、栞里ちゃんは怪訝そうに振り向いた。


「どうしたの?」

「い、いや、別に…」


…飛び降りるかと思ってしまった。ほんとに、、、


栞里ちゃんはフェンスにもたれて、遠くのビル街をじっと眺めるだけだった。

地上からの淡いライトに仄かに照らされ、大きなTシャツが風に揺らめいて、華奢きゃしゃなからだがふわりと浮き上がって見える。


違う、、、


『眺める』というのは、正しくないかもしれない。

彼女の瞳には、なにも映ってなかったからだ。

ただ、虚空を漂うかの様な、行き場のない無感情な視線を、彼女は遠くに向けてるだけだった。

そして…

そんな彼女をどう扱っていいかわからず、ぼくもずっとその場に立ちすくんでた。


じれったい時間が過ぎていく。

聞きたい事は山ほどあるのに、どうしても上手く言葉にできない。

頭で考えてる事が、スムーズに言語化されないのだ。

やっぱりゲームと生の女の子とでは、当たりまえだけど、勝手が違う。

こんな時、リアル女性に慣れてるヨシキなら、もっと手際よくやれるだろう。

彼女とももっとすんなり打ち解けて、心を開かせられ、いろいろ事情もサクサクッと聞き出せて、どうしてやればいいのか、すぐに解決してやれるに違いない。


可愛い女の子を前にすると、こんなにもオロオロしてしまう自分が、ふがいない。

しかも厨坊相手だっていうのに、、、

8歳も年下だぞ。



 どのくらいそうしてただろう。

突然、栞里ちゃんはこちらを振り向くと、いきなり訊いてきた。


「ねえ。今日も泊まっていい?」


つづく

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