任務完了報告

 開館直後とはいえ、ルーヴル美術館は相変わらずの人の波。コンフェッティは、人をかき分けるようにして、女神の元にたどり着いた。

 サモトラケのニケ像は、人気の展示らしいとコンフェッティが知ったのは、途切れぬ人の波のため。それぞれが女神の優美さをほめそやしているのだが、実際には嫌味な石頭だと教えてやったらどんなだろうと想像して、コンフェッティはひとり苦笑した。


 ふと訪れた一瞬の静寂に、コンフェッティは片膝をついて一礼する。

「ごきげんよう、マドモアゼル。任務完了のご報告に参りました」

「ご苦労でした、コンフェッティ。時間がだいぶかかるので、気をもみました。しかし、扉はつながらなかったようですね」

 来た、と、コンフェッティは身を固くする。どう説明したものか考えあぐねている間に、ニケの言葉が続く。

「……しかし、私には何ら報告がありませんでしたが、ミニュイ・アルジャン・ド・ノールには不都合も起こっていたようですから、その点も加味しましょう。ただし、次回は必ず私への報告を優先するように」

 コンフェッティは、いつの間にか止めていた息を、ゆっくり吐きだした。

「了解しました、マドモアゼル」


「ときにコンフェッティ。ブイヤベースがお気に召したようですね」

「ええ、まあ」コンフェッティは、ニケが地獄耳と称されていたのを思い出す。

「では、本場のブイヤベースを食べてみてはいかがです。羽を伸ばすつもりで楽しんでいらっしゃい」

「もしかして、休暇がもらえるんですか?」

 おもわず声が弾んだ。休暇など、まともにとったことのないコンフェッティには、魅力的に響いた。

 その期待を、ニケの朗らかな笑い声が包み込む。

「休暇とはおかしなことを。よいですか、コンフェッティ。休暇は、仕事をしているものがとるのですよ。レモンの街の扉のつなぎ目が緩んだそうです。地中海は良いところですよ。今回よりもずっとスピーディに進むことを期待します。では、精進するように」

「え、ち、ちょっと待ってください」


 ニケが無反応になるのと同時に、頭上に落ちてきたのは、高速鉄道TGVのチケットだった。便名も、座席も、指定されている。

「これ、二時間後じゃねえか!」

 階段ホールに響くコンフェッティの叫び声に、階段下からのぞいた監視員が「シーッ」と人差し指を立てた。

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