第14話 令嬢と庭と予言と
「いい庭ね。はじめてじっくりと見たわ。わたくしもお花が好きなの」
令嬢が庭を眺める。
二人は木製のテーブルに並んで腰をおろした。
「ありがとう」
「いいえ、魔王さまの庭ですもの」
それもそうか、少女が肩をすくめる。
少女がせかすより先に、案外おしゃべりなのか、令嬢がことのあらましを話し始める。
「予言の書が予言を下したの。哀しき魔物の王を癒すのは、このわたくしだって。そのとき、わたくしはまだ、ほんの十三歳だった。最初は、事の重大さに身の震える思いがしたわ」
どこか遠くを見つめているようだ。
少女は令嬢を観察した。
彼女は、あまりにもか細くて、触れれば折れてしまいそうだ。ふんわりとした金の髪は、ゆるくウェーブを描いている。
「そうなの。やること多そうで大変そうね」
「魔王さまがさいしょ、どうしてかわいそうなのか分からなかったわ。あの方はいつだって強くて、ご立派であらせられたから」
ご立派、ね。
「魔人と人間じゃあ、感覚がちがうのかしら?」
令嬢がかわいらしく小首をかしげる。
「わたくしは人間よ。だからこそルンベさまがここに連れてきてくれたのだもの。父は王国の貴族でしたわ。わたくしは、そこを出奔して魔王さまにおつかえしたのよ」
少女は度肝を抜かれた。
この令嬢にそのような行動力があることに驚いたのだ。
「あなた、美しいだけじゃなくて、すごいのね!」
少女が絶賛したというのに、何が気に食わないのか、令嬢はどこか刺のある口調で聞いた。
「あなた、魔王様に興味がないの?」
「どうして? あるわよ」
なにもかも知ってやろうと思っているんだから、少女は意気込む。
「じゃあ、わたくしをどうして敬わないの」
少女には意味が分からなかった。
「魔王様をすくうのはわたくしなのよ。ここに来るのだって、監視の目を欺いたりして、とても苦労しましたのよ。すごいなんて言葉で片付けてほしくないの」
「…はあ」
「ところで、あなたは、何?」
「わたし? ただの居候ですよ」
「聞いてないわ」
「そうですか」
言ってないんだ。
なんとなく居心地がわるい。
しかし、簡単に人を殺しそうじゃないのはありがたかった。魔王相手だったら、ドラゴンがいても今頃消し炭になっていただろうから。最初に少女に攻撃してきたのは、まあ、しょうがない。
「でも、どうして庭に来たの?」
「ルンベさまが、魔王さまとお話がしたいようだったから、すこし抜けてきたの」
どうやら、この令嬢はひとりで来たわけではないようだった。そのルンベとやらが令嬢を伴ってきたらしい。
「とにかく、魔王のところに行きましょうよ。案内するわ」
「結構です。場所なら知ってますもの」
「いいじゃないの」
嫌がって身を引く令嬢と、上半身を彼女によせる少女と。
結局、好奇心にかられた少女に押し切られる形で、二人の女の子は並んで居間に向かったのだった。
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