第21話「カーテンの向こう側」


あの時と同じ、カーテンの向こう側


“わたし達”は、物語を書いているーー




せんぱいの姿を見たとき、わたしは嬉しかった。


「きっと、せんぱいは生きているだろう」


そう心に強く願い、信じて、生きてきたから。



わたしは漫画を描くのを辞めていました。

理由は「健康に悪いから」です。


あの頃は、夜遅くまで床に座ったまま。

小さく丸い木製のテーブルと、肩を丸めたわたし。


喉が渇いたら近所の自動販売機で缶コーヒーを選ぶ。

カフェオレ、カフェラテ。

いつもの蛾がボタンに張りつき「それ飽きないの?」と羽をバタバタ。

マイマイガのくせに。

引き寄せられるダイドーの自動販売機の馴染み。

立ち止まって。

外の空気ーー夜風に当たる心地よさ。

「ガコンッ」と、わたしにとってのアウフヘーベン。

取り出し口から缶コーヒーに触れる最初の感触。

そして閉じる音。


そのわずかな夜散歩も、わたしの生を維持させました。


何時間も原稿用紙と向き合い続けました。

そのまま朝日をカーテンの向こう側から感じて終える日々。

自律神経は狂いっぱなしだったと思います。


わたしの筆は遅いものでした。


ネームの段階で実験的なコマ割りに気を取られたり…。

自分を「健康的に」導いてくれる何かが足りなかったのです。

だから、誰かの助けが必要だったのでしょう。



人生は、誰かが傍にいなければなりません


「隣りに」というわけではなくて「自分の道筋を見守ってくれる人」


横道に逸れることに夢中になって、関係ないお喋りで浪費してはいけません…。


わたしは時に、おしゃべりが過ぎます。


自分が果たすべき何かを忘れてしまってはいけません。


それならきっと、2番目の幸せを選んだ方がマシになります。




借りたまま返さずに、しかも、読まずに。

友達から借りた本があります。


友達が「カロドポタリクル」で安楽死を選び。

死に、手元に残った本。

そこから…。


わたしは、いえ、“私たち”は、

作り直すことが出来ます。


手始めに思って、

たまたま図書館で借りた本に挟まっていた髪の毛から、

クローン技術を試し初めて…そして産まれた、娘。

誰かの面影に気づかず、成長した姿に…。


非道な別れをしてしまったあの娘の髪の毛だった事に気づいた時ーー


それは報いのための作業なのでしょうか…。

あの娘も読んだというその本の内容…その重なりは…。



わたしは自分が「クローン」なのではないかと思っていました


ただ、わたしが「カロドポタリクル」を使用しなかったのは、

この人生で果たすべき何かを終えていなかったからです。



充実した人生が欲しかった。

自分が満たされるものが欲しかった。


自分が向かうべき先にあるものを知りたかった。




「本」がわたしを変えた


わたしには、「コンピュータ」は必要ありません


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