第16話「SNS -宙ぶらりんになる-」
マクドナルドで昼食を摂ることにした
郊外にあるマクドナルドの駐車場は広かった
頭上をしっかりと曇り空が覆っていた
雨が降りそうだったーー
店内の客数は少なく、今日は平日だった
メニューに迷い曇った表情の私に店員はマニュアル通りの笑顔を射す
空いていたから、私は4人掛けのテーブルに座る
通路を挟む向こう側には、カップルの姿がある
一瞥し、たどたどしい雰囲気が会話に見て取れる
彼らの頭上にも晴れ間が見つからないようだ
私はポテトを一口
スマホでSNSの更新を確認する
世の中のことは、宙ぶらりんになっていた
3日間の猶予を自分に与えた
私に残された自分を考えるための時間
私は、次の職場も決めないままだった
会社は人手不足だった
辞めていく人間に優しい言葉を掛ける余裕もなかった
使い捨てるように辞める前の連続勤務が続いた
同僚は「仕方ないよね」という職場環境への諦めがあったから
「気持ちは察する」という態度ではあったようだ
私は人手不足の中で退職することに申し訳ない気持ちであった
ただ、個人の幸せは別だと思う
人の人生を決めるのは環境だというのが悲しかったし、抗いたかった
私が人生の意義をこんなところで終わらせたくなかった
えびフィレオを食べ終えた
私はこれが何となく好きだった
特にすることもないので
私の意識は向こう側のカップルに気が向いた
見ていると会話の中に余白があり
その静まりの中でコーヒーをすする
……音がある
噛み合わない二人が居て
噛み合わないままの会話を大切にする
接点を持つ二人
接点を大切にする
噛み合う瞬間の訪れを大切にする
コーヒーを飲み干すまでの間に決断をする
男の手が止まる
コーヒーをテーブルに置く
……音がある
飲み口に残った雫が薄く広がり
ある躊躇いを待つための間を作る
手に取るたびに、ためらい
間を置く
飲み干すまでに、巡る
飲み干すときまで
私はこの曇り空を見ていたことに気づく
もう直ぐ来るであろう
にわか雨を
待つだけ待って
来るであろう人のことを
「季節感のない服だね」
と、女が言った
そう言われてから男は自分の服装に目を向けた
私も、私の服装のことを考えた
自分自身が世の中と上手く噛み合っていないように思う
何から考えるべきか判らない
マクドナルドで宙ぶらりんになった
そこからどうやって着地をしたら良いのか?
食べた後、車内で休憩することにした
空から、にわか雨が始まった
私は自分の生い立ちに気を向けた
今夜はどの場所で寝るのだろうか?
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