第31話 内藤みちる、にゃんこの世界の中心でちょっぴり幸せを感じちゃいます!
「ミーコちゃーん」
声の主は人間の女性2人だった。
「あ、みちるちゃんとるなちゃんだ!」女子力猫〈ミーコ〉は大きく声の方に手を振った。
「ミーコちゃん、はじめまして~渡辺るなでーーーす☆にこっ」
「すごーーい!!本物のるなちゃんだ!」
女子力猫〈ミーコ〉は大きく目を見開いて渡辺るなを見つめた。さっきまで結構見下したような噂話をしていたのに実物と面と向かうと毛が逆立って、ほんとうに感激しているようだ。
「私、芸能人に会うのはじめてなの!とっても感激しています!」少しもじもじしながら女子力猫〈ミーコ〉はいった。
いやーさっきの上から目線はどこにいった?
渡辺るなはすばやく女子力猫〈ミーコ〉の右前足を取り両手で包み込むようにやさしく握りしめた。目はまっすぐと女子力猫〈ミーコ〉を見据えていた。
「ミーコちゃん、よろしくね☆にこっ」
キュン死しかけた女子力猫〈ミーコ〉は2~3秒固まっていたが、気を取り直しその場にいる2匹と1人を紹介した。
「こちらがさっき踊っていたチャーちゃん。こちらは私のボーイフレンドのクロちゃん。そしてカメラマンの水島信也さん」
「初めまして。渡辺るなでーーーす☆にこっ」
真面目猫〈チャー〉は角度45度のお辞儀をし、爽やか男子猫〈クロ〉は渡辺るなの足元をスリスリし、水島信也は「お、おっ、はじめまして…水島信也です…」と小声でぎこちなくいった。
「こちらはるなちゃん。アイドルなんですよ」内藤みちるは渡辺るなをみんなに紹介した。
「みなさん、猫の国のプリンセスるなです。みんなの心を猫掴みしちゃうぞ」渡辺るなは茶目っ気たっぷりに自己紹介した。
「そうそう、るなちゃん、ミーコちゃんとクロちゃんは実は有名なユーチューバーなんですよ」内藤みちるが間を取り持つ。
「ええ、そうなんですか?すごーい。私もショールームやってるんだお~。PVってどんな感じなんですか?」
「やあ、だいたい100万PVって感じでしょうか?」爽やか男子猫〈クロ〉はちょっと自慢そうに言った。
まあ、自慢してもいいと思う。確かにすごいから。猫なのに。と内藤みちるは思う。
「え!すごい!ぜひぜひノウハウを教えていただきたいわ。ぜひ、ゆっくりご飯でも食べながら…」
渡辺るなが数字を聞いていきなり態度を変えた。
るならしい。
「い、いやあ、ま、まぐれですよ、まぐれ。ミーコちゃんががんばってくれているんです」
爽やか男子猫〈クロ〉は明らかに女子力猫〈ミーコ〉を意識しながらそう言った。まあ、そりゃそうだろ。女子力猫〈ミーコ〉はすぐにへそを曲げるので今怒らせても得策じゃないからね。腹黒のクロはそこのところはぬかりないと内藤みちるは分析した。
ミーコも褒められてまんざらではないようだった。
「あ、あの…」
おっと、もう一人男がいた。まるで存在感がなかったので意識の外にいたが…と水島信也以外の全員が思った…
「あ、ごめんなさい」渡辺るなも気づいたようだった。やっぱり忘れてた?
「この人、水島信也さん。プロのカメラマン」
「は、はい…。実は少年漫画誌でのグレMIXのグラビア撮影の際にアシとして現場に入っていて…るなさんのことはその時に見かけたことがあって…うにゃうにゃ…」
水島信也の一方的な渡辺るなとの出会いのエピソードは続いたが、それはまったく耳に入らないかのようにみんなの会話の花が咲いた。
ドドン、ドン、ヒュー
大きな音とともに夜空に花火が輝いた。
「あ、花火だ!クロちゃん、ロマンチックよねえ」女子力猫〈ミーコ〉がうっとりしてそうつぶやいた。
気づくともう外は夜に包まれていた。猫たちの一夜の祭り、猫たちの一夜の宴。人間がいたころに見た祭りの景色。あの時楽しかった思い出を覚えていて、ずっと引き継いできた猫たち。そして、猫たちが守ろうとした伝統。そんなものがここには残っていた。
夜空には花火が舞い上がる。
「タマやー」猫たちが叫ぶ。
人間と猫の幸せな生活が確かにここにはあったんだ。
内藤みちるはそんなことを考えながら花火を見上げた。たしかに自分は幸せな瞬間にいるのだなとしみじみ感じながら。
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