第27話 渡辺るな、お祭り会場で目立ったるでー


祭り太鼓の音が鳴り響く中、突然やぐらのほうからマイクを通じて声が聞こえてきた。


「みなさーん、お元気ですか?私、渡辺るなです。みんなの心を猫づかみしちゃうぞ!」


「わあー、るなちゃーん」会場からは黄色い猫たちの声が聞こえる。


「今日はこの舞台をお借りして、猫王国のプリンセスるなのパフォーマンスをお見せしますね。まずは1曲目、恋してねこ気分。手拍子お願いしまーす」


恋に恋して猫気分

あなたが大好き…だから

私はいつでも猫気分

あなたは私の猫じゃらしー ハイ


「サイバー ファイヤー ジャージャー

ルナルナルナルナ プリンセス!

ルナルナルナルナ 愛してる!」



会場のつかみはいい感じ。

ステージに立つって楽しい!

だけど、お客が猫というところが解せない。

それにしても、猫の世界もアイドルの応援は子供よりも大きなお友達だなあ。


「2曲目は「時には猫パンチも必要」って曲です。この曲はバラードで、彼との恋の駆け引きを歌った曲なんです。途中の掛け声、猫パンパンチってところは、こぶしをこうやってかわいく握って猫パンチポーズをとるんですが、ここ、みなさんも一緒にやってみてくださいね。猫パンパンチですよー」と実際にやって見せた。


なーにが、猫パンパンチーだよ。

ばっかじゃないの?

こんなんで、男が言いなりになるわけないじゃん。男を従わせるのはやっぱりお色気でしょう?


渡辺るなは心ではそう思いながらも、顔は満面の笑顔で踊って見せた。


猫パンパンチー 猫パンチー

時には私も怒っちゃう

猫パンパンチー 猫パンチー

だから優しく叱っちゃうー


大きなお友達猫たちはノリノリで猫パンチポーズをとっていた。


結局テレビ局の放送は入らなかった。

テレビ放送が入らないことを知ったのは3日前だ。


「ねえ、マネージャー、こんなチャンスめったにないのよ。なんとか中継入れないの?グレープフルーツMIXショーぐらいにはごり押しできるでしょう?マネージャーなんだからそれぐらいやってよ。そこで映してもらえたら、少しは私テレビで露出できるのよ。テレビにもう一度出られたら、きっと私輝いて見せる!」


「渡辺、わかってる。だけど、無理いうなよ。「グレショー」はもう何か月も後の放送まで撮ってあるし、神セブンメンバーの取り組みがどうしても優先されるから。ファンが一番望んでいるのは神セブンメンバーの露出だ。渡辺、お前だっていたいほどそれはわかっているだろ?」


スマホから聞こえてくるマネージャーの声の背後にメンバーの笑い声がちらちらと聞こえる。私はギリギリと奥歯をかんだ。


そう。


グレMIXのことは嫌というほどわかっている。グレMIXは実力主義社会だ。お金を稼いだものが何よりも優先される、完全な競争社会。かくいう私も以前売れていたころは先輩を平気で蹴落として、鼻先でバカにさえしていた。今自分がそっち側の人間になるなんて…。

あの頃は思いもしなかった。


「渡辺、自己プロデュースしろ。上に上がっていくにはそれしかない」


わかってる。

今はユーチューブもあれば、ショールームもある。

誰も育ててなんてくれない。

見出してなんてくれない。

光る原石は自分で磨くしかない。


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