第19話 水島信也、にゃんこにいいように使われている気がする。以上。
「クロちゃんの1日は面白いですね」
「あの子、クロちゃんっていうのね」
「猫じゃらしでじゃれちゃってかわいい!」
「無邪気な猫に癒されるー」
水島信也がネットをチェックしてみると爽やか男子猫〈クロ〉のアップした動画には賛美のコメントが連なっていた。「いいね」の数も半端ない。
これは意外と意外にいけるのかも?
だけど、これが「狙ってる」なんて誰も思わないだろう。おまけに猫のセルフプロデュースだなんて。常識では絶対ありえんだろう?
水島信也がレンズを向ける先には爽やか男子猫〈クロ〉がいる。
カフェの一画をマスターの好意で貸してもらってさっそくコンテンツの撮影が始まっていた。ファインダーを通して、きれいな黒猫が無邪気にかわいい仕草を繰り出す。天真爛漫な様子に確かに癒される。けれど、この仕草も天真爛漫さもすべて計算だなんて。俺、もう猫を信じられなくなるかもしれない…。
「慎也、毎日一本アップの予定です。やっぱり出し続けることって視聴者を引っ張る最善の方法ですから。今日は猫じゃらしで遊ぶ猫の図を撮るので、慎也がボクに猫じゃらしをポンポンって振ってください。ボクが可愛くチョンチョンってしますから」
なんか腹黒―。
お前はクロはクロでも腹黒の黒だな。
「慎也、早く!」
呼び捨て?なんか俺、猫にアゴで使われてない?
「こうかい?」
俺はクロに促されてしぶしぶ猫じゃらしをブンブン振った。
「ちょっ!ダメですって。そんな乱暴なのは。わかってないなあ。視聴者の80パーセントは女子供ですよ。「かわいい!」「キュン死しちゃう!」って言わせてなんぼですからね。いくら『けものフレンズ』が売れたからって、こんな激しい動きでボクがケモノになってる様子なんて見たいわけないじゃないですか。ボクっていうブランドイメージを大切にしてください。カメラワークはあくまでもボクの表情、それから肉球の様子にポイントを絞ってください。手の握った感じに人はまた萌えるんですよ」
うー、悔しいけどよく知ってんなあ。
爽やか男子猫〈クロ〉は猫じゃらしと知りつつ、何これ?みたいに可愛く首を傾けてみる。ちょうど耳が前を向くのでくそかわいい。くそー、オスのくせに、萌えるじゃないか!いや、誤解するな!俺は断じて男にも萌えないぞ。多分。きっと。まさか…目覚めた?いやいやいやいや。
もう毒を食らわば皿までじゃー。クロ推しと一緒にキュン死してやるー。
「クロ、モフモフ感出すためライト当てんぞ!毛が透けてキラキラして見えっから。茶毛もブリーチして少し色落ちさせた方が柔らかいイメージが出るかものも?それと、お前の首輪、茶色にオレンジははえねーわ。やっぱ茶には赤だわ。ドラえもんのようなおっきな鈴つけると、小顔効果でさらにかわいく見えるんじゃね?」
「さすがカメラマンですね。頼もしい!アドバイス大歓迎ですよ。共にいいものを作っていきましょう!」
「お、おう!」
「そうそう、慎也。ボク的には女子のユーチューバーも人気が出ると踏んでるんですよ。女子トークを聞きたがるキモオタは意外と多いですからね」
「女子…ですか」
「そうそう、それでミーコちゃんを次の撮影に誘っておきました。彼女のあの弾丸トークはきっと僕達の戦力になるはずですよ」
「お、おう」
ええと、俺ってどこに向かってんのかな?
だけど。
元の社会ではいつまでも下っ端のアシスタントとしてしか見てもらえず、カメラマンとしてそんなに目覚ましい活躍ができなかった俺でも、ここだといっぱしのカメラマンとして大成できるかもしれねーな。
案外ここはおもしれーのかもしれない?
そんなことが頭をよぎった。
爽やか男子猫〈クロ〉は思った以上に腹黒く、金目のものに鼻が効きそうなので、俺は結局クロについて行くしか道はないようだ。
「お、おう!仲間のしるしとして、俺のこと呼び捨てにしてくれていいぞ」
「ボクのことはプロデューサーと呼んでください。そうだなあ、プロデューサーとカメラマンだと、儲けの分け前は7:3ぐらいが妥当かな?ミーコちゃんはたまにキラキラする首輪でもプレゼントしておけば納得でしょう」
こいつ、どこまで腹黒いんだか。
だけど、俺にはこの条件を飲むしか方法はなかった。
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