第15話 内藤みちる、自分を振り返っちゃいます!


内藤みちるは女子力猫〈ミーコ〉とたわいもない会話をしながら内省する。


高校を卒業後、小説家になりたい一心で東京に出てきた。


栄華繁栄大学生、文学部。


多くの作家を輩出してきた憧れの学部にも入ることができて前途洋々とも思われた。

だけど、特にツテもなかったので小説家になる手立てなんてなく、とりあえず出版社にいけばなんとかなるかもと、近くの出版社に無断侵入したのだった。警備の目をかいくぐり、編集部まで行って雇ってくれるまでこの部屋を出ないと編集室に籠城までしてみたものの、いまどき小説はweb小説が主流で、そんなことしなくても、そこでファンがつけば自然と道が開けるといわれ、すっごく恥ずかしい思いをしたんだった。


編集部は情弱の内藤みちるを気の毒に思ってか、丁寧にweb小説「小説書く人になろう」のサイトを教えてくれた。

それで気を取り直して、「小説書く人になろう」で渾身の作品を書いて出したところ、まったく鳴かず飛ばず。

下手に数名のファンがついてしまっただけに、撤退するにもできず、もう東京にいる意味もまったくなくなってしまい、煮詰まっていた時に紫蘭泰三教授の口車に乗ってしまいこの異世界にやってきたのだった。


しかし、まさに事実は小説より奇なり。

この異世界の猫たちには驚いた。立つわ、しゃべるわ、おしゃれするわ…。

気づいたら一日中、女子会ってことも珍しくない。

特に女子力猫〈ミーコ〉。しゃべるわ、しゃべるわ、しゃべるわでしゃべってないときはないんじゃないかってぐらい。


ここにいたら、自分の悩みなんてもうどうでもよくなってきた。

このままここにいて、このまったりな感じに浸ってていいのかしら。

居心地はいい。居心地は実にいいんだけど…。

この洗脳された感じ、下手すると廃人化しそうな怠惰な日々をこのまま繰り返していいものだろうか。


そんな心配をよそに女子力猫〈ミーコ〉は相変わらずおしゃべりをしてくる。

ああ…。またおしゃべりに洗脳される…。


「そうそう、そういえば、丘の上のあたりに新しくお店できたの知ってる?またたびバーだってよ。今度一緒に行ってみない?大人の香りがするじゃない?」


いや、いかないから。


「そうね、クロちゃんを誘ったらどうかしら?ちょっと大人のムードで攻めてみるというのも悪くないんじゃない?」


「そうね。それいいアイデアかも。うふふ」


女子力猫〈ミーコ〉は上機嫌でテーブルの上の葉っぱをつまんで食べた。


「ねえ、さっきから何をつまんでるの?」


「あ、これ?猫草よ。よかったらみちるもどうぞ」


「いや、丁重にお断りいたします」


「知らないの?猫草って美容にいいのよ。猫界では常識よ。猫草食べて、毛玉ケアしないと便秘になったのと一緒。きれいなつや毛は保てないんだから」


そうですね。そうですけど、人は猫草で便秘は治らないと思う。もうそういうのいちいち突っ込むのも疲れて、適当な笑いを作って見せた。


女子力猫〈ミーコ〉は内藤みちるの疲労はまったく気にすることなく、猫草をつまんでいた。

朝からついていたテレビからは、ちょうどライダーインゼリーのCMが流れていた。


「ねえ、そういえば、飲むキャットフードが出たって知ってた?朝は忙しいから、これがあればぎりぎりまで寝てられるのよねえ」


え?そんなのあるの?


今まで知らなかったけれど、猫の世界も意外と洗練されている。人間と同じテレビを見ているせいか、人間の作った最新の製品も結構普及しているようだった。


どこで買ってるのかは…知らない。


内藤みちるはそろそろ女子力猫〈ミーコ〉とのおしゃべりにも疲れて、ちょっと外の空気を吸いに行きたくなった。

内藤みちるが外に出ようとすると、女子力猫〈ミーコ〉はつかさずダメ出しをする。


「みちるちゃん、そのお洋服はだめ。今のトレンドはゆったりシルエットよ。だぼっと感がかわいいの。わかってないんだから。くるぶしは出してね」


ああ、面倒くさい。それにしてもそんな服、あったかな?


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