いたずらな世界に愛と弾丸を込めて(御影の話)

世界のはてには一体何があるのかを考えることが、内緒にしていた私だけの趣味でした。令嬢として弁えるべき教育の時間以外、私には自由な時間が与えられていました。しかしながら私に用意されていたのは、玩具箱じみた一人部屋と地下書庫、それから部屋いっぱいのぬいぐるみだけでしたので、私は愛すべきぬいぐるみたちと共に、世界のはてにあるものについて思いを馳せることしかすることがなかったのです。

世界のはてにあるものは、星なのだと偉い人は言いました。はたまたある人は、世界のはてにあるものは海なのだと言いました。けれども、私とぬいぐるみたちは、世界のはてにあるものは、紛れもない死なのだという結論に至ったのです。

その結論に至ってから、私は世界のはてに憧れたのです。正確に言えば、世界のはてにあるだろう死に恋焦がれたのです。大きな洋館の、大きな窓から、私はただただ待ち続けました。白馬の王子様よりも、かぼちゃの馬車よりも、私は死を与えてくれる人を待ち続けたのです。死というおおきな何かに呑み込まれて、このうつくしい世界の一部に融けあえる。なんて素敵なことなのでしょう。だからこそ、あの日、あの時に大きな窓から指し伸ばされた手のひらを、私は死神の手のひらだと信じて迷うことなく掴んでみせたのです。


しかし、手のひらを差し出してくれた少年は、紛うことなく血の通った人間でした。その手のひらは私を人間として正しい位置に導いてくれはしましたが、私の体温を奪い去ってくれはしなかったのです。彼方、と名乗った少年は世界の中心へは連れて行ってくれようとしましたが、つめたくて寂しい、私が恋焦がれた世界のはてへは連れて行ってくれはしませでした。

私と、由良と彼方。三人で構築した世界は,どこまでも透明で、恋焦がれた死のつめたさに良く似てはいましたが、人と人とを繋ぐ焔が存在していました。友情や愛情や、憎悪や憧憬。そういった感情の数々は、この雪国じみた世界でも炎のように揺らめいていて、それらは容赦なく私の皮膚に火傷を負わせるのです。


だからこそ、私はこの世界が傷ついて、壊れてしまうことを望んだのです。

いつか、誰かが、この雪国を覆う殻を壊して、そうしてつまらない笑顔しかできない私を、永久凍土に埋葬してくれるまで。私は、大切な幼馴染の三人で完成されたうつくしい世界で息を衝き続けたのです。


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