BL短編集
くくり
機械仕掛けのインソムニア2
「分かってるよ、明日の夜7時からだろ。帰るよ、明日の午前中にはそっち着くようにするって……うるさいなぁ…今から、委員会会議だから…」
スマホ片手に委員会会議室である、第三音楽室の扉の取っ手に手をかけた。
この学園の校則では、授業中以外ならスマホや携帯での通話が許されている。しかし、ラインやメールなどの返信等は禁止。意味がわからない、俺は風紀委員として、この校則を廃止するつもりだ。
中に入ると俺以外の委員会委員長と生徒会役員が揃っていた。
なんだよ、俺が最後かよ…謝罪のつもりで右手を上げて挨拶をする。
スマホの向こうでグズグズと五月蝿い相手が、名残惜しげに俺に再三の注意と念押しをしてくる。うっせぇーなぁ!もう!
「もう切るよ…今から会議…うん、うん、うん…分かったから」
あまり人前で電話に出ない俺が、会議そっちのけで電話の相手をしているのが皆んな珍しいらしく、さっきまで歓談していたくせに今は全員俺に注目している。
壁掛け時計を見ると、あと5分で会議開始時間だった。
ため息を溢して、自分の席まで歩いて、スマホを耳と肩で挟み、用意されている資料を両手で持ちながら目を通していく。
ざっくり頭に入れて、時計を見れば後3分。
「マジで、会議始まるから、切るよ…サキ」
俺の鬱陶しげな声音に、とうとうわけわかんネェ事を叫び始めたヤツに舌打ちした。そして、いつものごとく俺は切れた。
「うるっせぇ…!泣くな、鬱陶しい。切るぞ、話は明日だ、明日。じゃあな。」
通話を切る直前、スマホから相手の絶叫が聞こえたが無視した。
ため息を溢しながら、席についた。
時計を見れば、ちょうど開始時刻だ。
いつもの会議開始の号令を、生徒会長であるヤツが言い始めるのを待った。
しかし、一向に始まらない。
怪訝に思い顔を上げると、苦笑いの生徒会長と目があった。
「……なんだよ。」
「いや…始めたいんだが、みんながそれどころじゃないらしい…」
「はぁ?」
周りを見れば、殆どの奴らが机に突っ伏して項垂れていた。
意味がわからん、何なんだよ。俺は、早く会議を終わらせて、明日の帰省する準備を始めたいんだが。
「なに、これ?」
生徒会長にアゴで周りをさせば、ヤツはやはり苦笑いのまま口を開いた。
「サキ、が誰か、みんな気になってるんだろう。」
「あぁ、なるほど。」
「…か、彼女ですか?」
そう聞く、書記のハナヤギが、絶望していた。面倒くさくなって、またため息をついた。
「そうだよ。」
そう笑って答えれば、会議室から絶叫して飛び出していく奴らが多数現れて、残った奴らも咽び泣いていた。
会議どころじゃねーな、これ。
「風紀委員長…」
「なんだよ、生徒会長」
「事態の収集を、頼むからつけてくれ。」
「えぇ〜…俺って、そんな人気者だったの?」
膝から崩れ落ちて泣いているハナヤギが、壊れた人形みたいに首を縦に振り乱して肯定してくれた。
しょうがねーなぁ、しかし、どうする?
「校内放送でもかけるか?」
「なんで、一個人の彼女の有無を校内放送すんだよ、ヤダよハゲ」
笑うな、ハゲ。
そういや、アイツは放送委員だったな…。
「まぁ…でも、久しぶりに『カナメ』に名前を読まれるのも悪くねーか。」
2年ぶりくらいに口にした名前に、思わず微笑めば、今度は生徒会長が惚けた顔をして、次の瞬間泣き始めた。
「何泣いてんの…ツカサ。」
「おま、お前は…それは、不意打ち過ぎ」
「泣くなよ、バカじゃねーの?カナメに言っといてよ。『鍵崎ユウに、彼女はいません。いるのは、くそウザい弟だけです』って校内放送しとけって。」
「いろいろ良がっだぁよぉおおお!!ほんっ、ど、結婚しでぇええユウせんばぃいいい!!?」
「ヤダよ、ハゲ。」
ハナヤギが咽び泣きながら天を仰ぐので、思わず声を出して笑った。
生徒会が全員泣くし、委員長達ももらい泣きするしで、結局、会議は中止になった。
次の日、号泣しながらカナメが、マジで校内放送したから、腹抱えて笑う羽目になった。
了
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