第8話 黒い夢と後悔


 俺はいつの間にか目を覚ましていた。

いや、多分覚ましてなんかいない。何故かと言うと目は開いたが瞬きが出来ない。体が動かない。オマケに周りは明かりのない村より暗い。というか光源というものが一切ない。

 あのー、夢ならそろそろ醒めてくれないと心細いんですけど……

 そう思っていると暗闇の中から更に黒いモヤが何も無いところから現れた。そしていきなり話し始めると来たもんだ。


「おい、あんまり無理するもんじゃない、我の魔力を使って分かったと思うがそもそもの話、お前はまだ魔力のコントロールも出来ず、体も完全に出来上がっていないんだぞ。いいか、よく聞けよ。とにかく体力を付けろ。そうだなぁー、我の大好きな飯を食うことと、走ること、四属性魔法の練習をしとけば十分だ。もし「怠惰」のヤツ見たいにサボっていたらお前を我の魔力で内側から破壊してやるからな。ガハハ!あ、そういえばまだ名前を言っとらんかったな、我の名は……」


 うわっ!なんか喋ってる!なんか俺真っ暗闇な空間で更に黒いモヤ(もしかしてさっき出てきたやつか?)に一方的に話しかけられてる。

 しかも声も出せねーし、おいおいなんか物騒な事言ってるよ!?ていうか一番大事な名前言ってから消えろよ!おい待てバカ!

 俺の声にならない声を無視して、黒いモヤは結局自分の名前も言わずに支離滅裂なことを言って現れた時と同じように突然消え去っていった。

 そして訪れる静寂。のはずが何処かを誰かが走り回っている音がする。その音が聞こえ始めてからそんなに時間が経たずに視界に目を瞑る程の光が広がった。結局なんなんだよ?



━━━━━━━━━━━━━━



 「はぁ、もう驚かねぇよ。全く次から次へとなんだってんだよ。ていうか我とか偉そうに言いやがって、何者なんだよあいつは!」


 そう愚痴と文句をこぼしながら俺は体を起こした。窓の外が見えて夕方になっているのが確認できた。もうこんな時間か。

 あれ?なんか疲れた感じとか肩の傷とかがだいぶ無くなってるぞ?ていうかここいつも寝てる部屋だよな、誰が運んでくれたんだ?

 まぁいっか。どうせバーバラさんが気付いて運んでくれたんだろ。やっぱ俺悪運持ってるかも。

 そんな失礼なことを考えていたところら突然近くからモゾモゾという音が聞こえてきた。


「ん…ルクス、やっと、起きた?」


 ん?なんか隣で眠そうな甘い声がする。

そう思ってそっちの方を見てみると。


「え?うわぁ!」


 俺は突然のことに驚き過ぎてベッドから転げ落ちた。何故かと言うと俺が寝てるベッドにアリアさんも寝ていたからだ。

 ちなみにバーバラさんの掟の中で、同じ部屋で男女が寝るのはいいが、お互いのベッドに入るのは御法度、というものがある。何故ダメなのか分かった気がするよ、バーバラさん。


「ふわぁ〜……ん?どうしたの?」


 アリアさんはそう無防備な格好(パジャマ)のまま、可愛く首を傾げて聞いてくる。くっ、眩しくて目が開けられない!もしかして神の子……いや女神そのものなのか!


 「ななな、何でもないよー?そ、それよりもなんで俺のベッドにいたの?」


「イーサが私の自主練が終わって帰ってくるまで見ててあげてって言ったから。あと私も心配だったし……」


 忘れてた。イーサ姉ちゃんに昨日八つ当りしたこと謝らなくちゃ!


 「ごめん、アリアさん!ちょっとイーサ姉ちゃんのところに行ってくる!あと俺のこと心配してくれてありがとね!」


「うん………行ってらっしゃいルクス」


 ルクスがドタバタと部屋から出ていった後、いつも表情に変化がないアリアが静かに微笑んでいたことに気付く人は誰もいなかった。



━━━━━━━━━━━━━━



 俺は今、決して本調子ではない体に鞭を打って走っている。


「いつもあんなに優しくしてもらっといて八つ当りとか、俺カッコ悪すぎだろ」


 イーサ姉ちゃんはいつも俺を、いやみんなを助けてくれてたんだ。

 俺が黒髪黒目なのを理由に「悪魔の子」と呼んでくる人を俺の代わりに怒ってくれたり、孤児のくせにと馬鹿にする大人達のせいで落ち込んでいた俺たちを励ましてくれたり、今回だって俺のことを思って言ってくれたことだったんだ。それなのに俺は。

 俺は泣きそうになりながらも足を止めない。そして、やっとのことで村から少し離れたところにある魔法を訓練をしている場所に到着した。そこにはバーバラさんが何やら緊張した顔持ちで1人立っている。その目線の先には。


「……は?」


 これは俺じゃなくても言葉が出なくなるに決まってる。


「ルクス!お前じゃまだ無理さね!村の人達に今すぐ伝えてくるだわさ、魔物のスタンピードが発生したってな!」


 なぜならいつも魔法を訓練している場所の奥、プレミア平原の方面から約3000匹ほどの大小様々な魔物がこちらに押し寄せているからだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る