第2話 誕生


ーーーここは神と「善の象徴」である神の子が「悪の象徴」とされる七つの大罪の名を冠する大悪魔を200年前に駆逐し、平和を取り戻した世界。ニュートラルーーー


 その世界の人族が暮らすササエ大陸のとある村にある孤児院で新たな命が誕生した。

 しかし、その誕生を祝う者は少数だった。何故なら、まず手始めにその赤子が身に宿した大き過ぎる魔力が母親の身体を破壊し始め、子供を出産したと同時に母親の命が尽きたことだろう。

 その母親は、息を引き取る前に孤児院の院長にある言葉を遺して逝ったそうだ。


「あぁ、やっと生まれてきてくれた…名前は…ルク、スよ、で、も…可愛がってあげら、れないわね…」


 ルクスという名前は一ヶ月前に1人で魔物の群れと戦い、相打ちで亡くなった兵士の父親がつけたがっていた名前だった。

 しかしこのことはまだマシだと言えなくもない。この世界では子供の自意識が目覚める前に両親がいなくなっているということも稀ではなかったからだ。


 問題は次の日に起きた。

生まれた日には母親と同じであるくすんだ金髪だったのが、1日後には身体から流れ出る黒い魔力のせいで髪の毛が真っ黒に染まっていたのだ。

 元々目の色も黒色だったのもあって、孤児院の近所の人々から「悪魔の子供」なのではという噂が流れ始めた。世話好きな孤児院の院長もこのことには手を焼いていた。

 たしかに黒髪というのはかつて神の子らに滅ぼされた七つの大罪と呼ばれる人物達を象徴するものだから、多少の畏怖があるのは仕方がない。しかし天然で黒髪の人がまったくいないというわけでもなかったので、まぁ大丈夫だろうということだった。


 問題の核はそこではなかった。

重要なのは元々くすんだ金髪だったのがどす黒い魔力によって黒髪に染められたという点だろう。

 この魔力は少しでも魔法をかじったことがあるものならすぐに黒魔法の魔力なのが分かる。何故ならまず魔力とは例外を除いて4つの色に分けることが出来る、それぞれ赤、青、緑、黄、そしてその色に合った属性の魔法を使用することができる、この世界の人々は少なくとも一つの属性には適性があるのが当然だった。

 そしてルクスが持つ黒い魔力が例外中の例外であり、人族の保有者が圧倒的に少ないというのは周知の事実だった。

 それなのになぜ、こんな赤ん坊が黒い魔力を宿しているのか。その原因を探るために孤児院の院長はある人物に相談するべく、1通の手紙を自分の風魔法で創造した伝書鳩に持たせた。


「さぁ、あの光魔法と対をなす黒魔法の魔力を持った赤ん坊、アンタはこの異常さをどう見るさね。」


そういってニヤッと微笑んだのだった。


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