幕間

第37話 船の上で


わたしは定期便の船の甲板で潮風を浴びながら、手元に開いたウィンドウを眺めていた。


「ルナさん、なにかいいことでもありましたか」


いつの間にかそばにきていたアカネが、わたしの顔を覗き込むように見上げてくる。見ると、やはりルリも一緒だった。二人は船内を探検しに行っていたのだけど、一日に二回就航する定期便ではそんなに見て回れるところはなかったらしい。感覚的にはもう帰ってきたの、という具合。


「うーん。どうかな」


わたしは「いいこと」と訊かれて答えに迷う。だから、直接には答えず、さっさと明かしてしまうことにする。


「あなたたちと出逢ってから、丸一日経ったんだなって思ってね」


わたしは開いていたウィンドウを二人に開示する。そこにはわたしのログイン時間が表示されていた。


――24d13h32m12s


ゲーム内時間で「二十四日十三時間三十二分十二秒」なので、リアルでは一日と三十分ちょっとということになる。


「そういえば、ルナさんと出逢ったのもこのくらいの時間でしたね」


そう。ルリと曲がり角で事故って、作業場に案内することになったのも、このくらいの時間だった。


……あれからもう二十四日経つのか。なんか昨日のことみたい。でも、思えばいろんなことがあった。ボス戦もいろんなのとやったし、クエストで神器と豪邸を手に入れたし、大精霊クシナダから加護をもらった。ガルプムース戦では死を経験したし、その後は呪符の改良から装備の一新に成功した。


「……なんか、本当に色々あったね」

「え? ……まあ、確かに色々ありましたよね」


あ、しまった。考え事してたらそのまま口に出しちゃった。なんか、アカネがきょとんとしてる。けど、まあいいや。ほっとこう。


「次の街はどんなところかな?」


わたしはわざとらしく話題を変える。


「ええ? もう……。次は<チタニアの街>でしたね。四つの島からなる自然豊かな街だそうですよ」


アカネがまじめに答えてくれる。


「おいしい食材とかあるかな?」

「ふふ。あるといいね。ルリの新しい料理、楽しみだなあ」

「わたし、がんばりますね!」

「じ、自由過ぎる……」


アカネがうなだれる。わたしはアカネに丁寧に説明してくれたことに感謝を伝えつつ、のんびりとおしゃべりしながら、ゆったりとした船での時間を騒がしくも穏やかにすごしたのだった。

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