第17話 アソシエーション
<ホクラニの街>滞在二日目。わたしたちは街歩きしていた。目的は情報収集。街の作りは噴水広場を中心とした十字街で変わらず。東の大通り北側に作業場があるのも同じ。そんな街で食べ歩き……もとい、聞き込みを続けていく。
そんな情報収集だが、アソシエーションがなんなのかはすぐにわかった。
アソシエーションは「ハンター協会」、「手工業組合」、「商業組合」の総称で、これのいずれか、またはすべてに登録することで、クエストを受けられるようになる。また、素材の売却で、屋台やお店を回っていたのだが、そんなことをせずとも、ハンター協会で一括で買い取ってくれるとのこと。……どうして、最初の<イグナシオの街>になかったのだろうか。
そんなことを思いつつも、関心はもうひとつの方に移る――機能解放の件だ。けれど、これはアソシエーションに参加することで解放されるというので、参加しないことには始まらないような気がする。
そういうことで、わたしたちは今いる東の大通りから、ハンター協会のある西の大通りを目指し、屋台巡りを続けた。
ハンター協会は大きな石造りの建物だった。作業場を思えば小さいが、作業場の方がどうかしている規模なので、十分に大きいといえる。
両開きの大きな木製のドアは開放されていて、そこから中を覗くと、百二十から三十くらいの高さで、長いカウンターが左右に延びていた。カウンターは窓口になっているらしく、台の縁が何色かに塗分けられていた。一番割合が多いのは素材の買い取りだろう。今は昼前という時間帯なので、全体の八割を占める赤い縁のカウンターには誰もいないが、依頼者だろうか、エプロンを付けた女性が青のカウンターで受付の女性と話し込んでいた。
わたしたちは新規の緑の窓口に向かう。そこでは、同じく新人であろう若い女性が、教育係と思しき男性に、仕事を教わっているところだった。
「……はい? え、あ、お、おはようございます!」
教育係の男性はわたしたちが近づいてくるのに気がついていたようだが、女性の方は手元のことでいっぱいだったらしく、言われるまで気づかなかったらしい。後ろでは男性が仕事ぶりを観察するようだ。……がんばっ!
「今回はどのようなご用件で……あ、新規のご登録ですよね! えっと、どちらの方がご登録されるのでしょうか」
……うん。大分、てんぱっているようだ。教育係の彼も、いろいろ、物を言いたいのを堪えているようす。なかなか大変だ。
「はい。三人、全員が登録するつもりなのですが、その前に、ハンターについて説明をいただいてもよろしいですか」
わたしがそう言うと、女性は振り返り、男性を見る。男性の方もいくらか困惑した様子を見せ、そして、
「失礼ながら、お尋ねします。もしかしてなのですが、あなた方は、<アルテシア>ですか?」
男性がおそるおそるといった感じで訊いた。
<アルテシア・オンライン>では、プレイヤーのことを<アルテシア>と呼ぶ。異界から召喚され、不老不死の身体を持つ人々。それゆえ、<アルテシア界>に永住する者という意味合いが込められている……と、言われている。……正直、今のログアウトできない状況を考えると笑えない。
わたしたちが<アルテシア>であることを肯定すると、二人は納得した様子で詳細に説明をくれた。……たぶん、かなり念入りに。その甲斐もあって、だいぶ、ハンターのイメージがつかめた。
まず、他のゲームでよくある冒険者というシステムと大きくは違わない。けれど、プレイヤーを<アルテシア>と呼ぶように、その「住む」というイメージが念頭にあるためか、冒険者という言葉は使われず、あくまでも、モンスターを狩って素材を納める生活のための職業、というスタンスがとられていた。
それでも、よくある採取依頼や討伐依頼は普通にあるし、採取する人たちの護衛依頼というのもあった。ハンターは生活の一部なんだというのが、よく分かる依頼の内容だった。
ついでに、他の二つも見てこようかな……いや、遠いからやめよう。そのうち近くまで行くことがあればその時にでも、クエストボードを覗いてみよう。
とりあえず、今回は登録だけにして、わたしたちは、ハンター協会を後にした。噴水広場のベンチで、メニューを開く。
確認すると、解放された機能は「オークション」と「ギルド」の二つ。
ギルドは、プレイヤー同士で集まって設立する組織のこと。設立に際しては、どこかに拠点となるギルドハウスというものを所有し、一定の金額をいずれかのアソシエーションに預託しておく必要がある。
この預託金は、ギルドクエストという個人ではなくギルドに対して依頼したもので、かつ、これを失敗した場合に違約金として一定額が没収される。これがゼロになればギルドは強制的に解散させられ、預託金を増やすには、ギルドクエストで成功するしかない。つまり、これがギルドとしての格付けのひとつになるということだった。
そして、ギルドクエストは、はっきり言って、個人依頼とは比較にならないほどに高難易度だと思わせる内容だった。その分、報酬も弾んでいる。もちろん、クエストもピンキリなので、手が届きそうなものもあったけど……人手が。三人ではちょっと、ね……。……うん。ギルドクエストは、できる人たちに任せておくことにしよう。
そして、もうひとつの機能、オークションは、メニューから物の売り買いができる機能のようだ。基本的にはプレイヤー間での物の売り買いのみ可能な機能ということだが、一部の特殊な物もここから買うことになるらしい。その特殊な物とは――土地だ。
土地は、ギルド設立の最低条件のひとつ「ギルドハウスを所有していること」を満たすための重要な要素だった。
けれど、土地はギルドうんぬんに関係なく、喉から手が出るほどに欲しいものでもあった。その理由は、
「これでデスペナを回避できますね」
アイテムの保管だ。
プレイヤーがフィールドで死亡した場合、そのフィールドに存在する街の噴水の前で復活する。その復活の代償は、アイテム欄にあるアイテムの部分消失だ。スレッドでは確率は二割から三割程度だろうと言われている。人によっては半数以上を失くすこともあったらしいが、確率だから仕方がない。
このデスペナルティによるアイテム消失は「アイテム欄」に限定されているため、装備中のアイテムは含まれない。その上、経験値消失もなく、ステータスの一時低下などもないということを合わせて考えれば、比較的、良心設計といえた。
そんな唯一のデスペナルティであるアイテムの部分消失だったが、これですら土地を持てば回避できてしまう。ロストするアイテムはアイテム欄にあるものに限定されるので拠点に保管しておけばなくなることはない。持ち歩けない不便さはあるけれど、それでも高価なアイテムを失くすリスクを思えば十分に許容だろう。
そんな魅力あふれる「土地」だが、もうしばらくは積み立てが必要そうだ。三人の所持金を合わせても、まったく届かない。でも、まあ、長く使うことになるだろう事を思えば、気に入った場所を探す時間くらいあってもいい。
結局、他にすることもないし、ということで、さっそく手工業組合と商業組合を見に行ったが、そちらは少し話を聞いて、何もせずに帰ってきた。クエストも二人とやれるものではないし、そもそも錬金術関連のクエストは少ないうえに、難易度が高い。……アランさんが嘆くわけだ。これでは膝をついてしまうのも納得だった。
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