刃蒐八章
渡辺人生
第1話
熱気が、闘技場を埋めつくしていた。
楕円形に造成された四千席ほどの客席には、金持ちや有力者がひしめき合い、興奮と熱狂を虚飾で覆うことを忘れてしまったようだ。
三十二名の剣士や武人が入場するたびに、場内は歓声やため息が漏れる。
普段は領主たちが、お抱えの武人を自慢し合うだけのこの王覧試合だが、今回ばかりは違う。今年は在野の武人からも広く参加を募っている。
賞金と名声目当てに過酷な予選を勝ち抜いてきた彼らは、着飾るばかりの名ばかり騎士とはまるで雰囲気が違う。
野趣あふれる、といえば聞こえはいいが、ほとんどが海の物とも、山の物ともつかぬ怪しい空気を纏っている。強い武人を抱えたいと思う地方領主などは、身を乗り出してそれら一人一人を品定めしている。
呼び出しの男が、大音声で名を呼び続ける。
「王国騎士団、近衛隊副隊長!その名も高きフィーザス・オーウェン!」
ひときわ大きな歓声が上がる。
神々を象った石像を思わせる、冷たく整った顔に、目もさえるような金髪。湖の底を覗き込むような青い瞳。現実離れした美しい相貌を崩し、白い歯を見せて笑いかけると、観客の貴婦人たちは喉も張り裂けんばかりに叫んだ。
端正な顔に見合わぬ二メートル近い巨躯には、光を吸い込むほどの黒い鎧をまといながら、まるでそれを感じさせない軽い身のこなしでリングに飛び上がる。
「賞金稼ぎ『竜槍のムイカ』!」
会場はどよめいた。
悪名も実力も折り紙付きの『竜槍のムイカ』がその名に見合わぬ美しい女だったからだ。
長い黒髪を雑に束ねて、見慣れぬ異国の着物は腰まで切れ上がり、豊満な胸がこぼれるほどに強調されている。
客席の男性陣は卑猥な冗談を言い、女性陣が顔をしかめる。
ムイカは貴人のそういった反応にはほとんど応えず、小さく舌打ちをしただけだ。
「戦いを知る者の目だな」
黒き全身鎧のフィーザス・オーウェンは、近くに立った『竜槍のムイカ』に声をかけた。
ムイカは釣り目に険を寄せた。
「あんた、その鎧を着て戦うわけ?」
「当然さ。騎士たるもの、いつ何時でも戦場の心持で戦うものだからね」
フィーザスは白い歯をきれいに見せて笑いかけた。
「すっごく馬鹿っぽいよ、それ」
ムイカがそう言ってふい、と視線を外す。
フィーザスの笑顔が一瞬ひきつったと同時に、会場がさざめき合うような笑いに包まれた。
笑いは、フィーザスの滑稽な姿にではなく、入場してきた少年に向けられたものだ。
「えー、リポリの村より参加。最年少のアル!」
呼び出しの男が、なんともやりづらそうに苦笑いをした。
二十歳そこそこのムイカより、さらに若い。十五、六にしか見えない少年の栗色の前髪は、母親に切られたばかりのように真っ直ぐ揃っている。
清潔で丈夫なだけが取り柄というような、飾り気のないシャツに、木刀を一本抱えた少年は、典型的な「おのぼりさん」だ。
観客たちは毒気を抜かれたように笑い、馬鹿にしたような、だが妙に親しみのこもった拍手を投げかける。
「私は君を応援するぞ! 負けるなアル!」
「おい、審判。泣きだしたら止めてやれよ!」
アルはそんな声の中、顔を真っ赤にして小走りに列に入った。その姿にまた笑いが起きる。
すっかり緩和した空気の会場は、次の入場者の登場でさらに緩み切った。
異国の顔立ちだが、齢は三十歳ほどだろうか。
黒い髪を先ほどのアルと同じように切りそろえ、シャツもズボンも、靴までアル少年と同じだ。
違うのは、抱えているのは木刀ではなく、やはり異国の剣――刀であるということだけだ。
「同じく、リポリの村より参加。アルの師、セイ・レンジョウ!」
セイは爆笑の渦の中、憮然とした表情でアルの隣に並ぶ。
同じ格好で並ぶ師弟の姿が妙におかしく、観客の中には、腹を抱えて笑うものまで出始めた。武人の中にも噴き出すものが現れる始末だ。
ムイカも険の強い顔を歪めて、喉の奥でくっく、と音を鳴らす。
フィーザスは、すっかり緩んでしまった空気が不満なようで、アルとセイに鋭い視線を送った。
弟子のアルはその視線に気づいて下を向き、師匠のセイは眉を寄せて正面から見据えた。
「貴様ら、王覧試合を馬鹿にしているのか?」
フィーザスが低く声を出すと、セイがやや硬い訛りのある言葉で答えた。
「あぁ? お前こそ、その鎧で試合する気か? 馬鹿みたいだぞ?」
セイの言葉を聞いて、ムイカはこらえきれずに、噴き出した。
「貴様! 王立騎士団近衛隊副隊長たるこのフィーザス・オーウェンに向かって……」
「自己紹介したけりゃ、その鎧にでも書いておけ。王立騎士団……なに?」
「近衛隊副隊長! フィーザス・オーウェンだ!」
「はいはい、フィーさんね。覚えたから少し黙っててくれ。鎧が暑苦しい」
「誰がフィーさんだ!」
参加者同士の小競り合いが続く中、呼び出しの男がひときわ声を張った。
「さて、かくも豪壮な勇者たちを迎え、武技の試し合いが行われること、まさに僥倖。畏くも我らが王、ウルドリヒ・アルマ・ニウルス陛下の御前で、心残すことなきよう、己が技の粋を見せられんことを誓いたまえ! なお、この試合に勝ち抜き、最も卓越した武人に対しては、陛下の御名において、賞金を与え、加えて我らが王立騎士団へ格別の待遇をもって迎えいれるとともに、爵位と領地を与えることを約束しよう!」
割れんばかりの拍手。
居並ぶ武人たちにも、緊張感が張りつめる。
貴賓席の最奥部から、ウルドリヒ国王が歩み出て、手を挙げた。
見事な白髪に、国王とは思えないほどの堂々たる体躯。彼が武人に対して並々ならぬ情熱を注ぐ理由の一つは、彼自身が戦いを好むからだ。
「さあ、存分に戦うがよい。その刃、折れるとも戦い抜くのだ!」
お披露目が終ると、武人たちは厳かに三頭立ての馬車に乗せられ、王宮の離れにある舞踏会用の大ホールへ招かれる。
二週間に及ぶ王覧試合の一日目は、昼過ぎからの盛大なパーティーで始まるのだ。
命の奪い合いを是とするわけでは無いが、それでも真剣試合だ。明日以降、場合によってはこの場にいない武人もいるだろう。
出席者のほとんどは、国王に謁見を許された由緒正しい貴族たちであり、武人たちの半数もまた、このような席には慣れている。
残りの半数のほとんど、つまり『一般参加』の武人のほとんどが、初めて見る絢爛豪華な会場と、贅を凝らした食事に目を丸くするばかりだった。
「おい、アル。今のうちに食っておけよ」
「わかってます! 師匠こそ、お酒ばっかり飲まないで、ちゃんと食べて下さい。すきっ腹にお酒だと、また倒れますよ」
形ばかりのあいさつが終ると、悪い意味で注目を集めた二人が、同じ意味で目立っていた。
「何だこのエビ。デカいな。食えるのか?」
「包んでもらいましょうか?」
「持って帰る前に傷んじまうだろ。賞金もらって買って帰ろう。百匹くらい」
ガツガツと無遠慮に食べる二人に、貴族からは憐れみにも似た視線が投げかけられるが、二人は気にしない。
「ねえ、あんたたち、その恰好って冗談でやってるの?」
竜槍のムイカが、片手にワインを持って話しかけてきた。相変わらずの露出だが、主催者側が貸してくれた、薄掛けの絹を羽織っている。
「冗談?」
弟子のアルは少年らしい顔に、話しかけてきた「お姉さん」に顔を向けたが、すぐに視線をそらす。
ムイカの格好は、少し刺激が強すぎる。
「そう、その髪型とか、シャツとか。どうしてそんな感じなの?」
「僕たちがお世話になっているおばさんが仕立ててくれたんです。髪も切ってもらって……変ですか?」
ムイカは一瞬戸惑って、少年に笑いかけた。長く美しい睫が、柔和な曲線を描く。
「ごめんね。よく似合ってるよ。とってもいい仕立てだわ。縫い目も丁寧だし、丈夫そうね。髪型は少し変だけど」
「そうかなぁ?」
アルは坊ちゃん刈りの前髪を触ってみた。
「ま、君はまだいいんだけどね」
そう言って、ムイカは隣のセイを意地悪そうな顔で見た。
「あんたもそのおばさんに?」
「そうだよ。文句あるか?」
「別に文句なんてないよ。でも、わざわざ弟子と同じ髪形にすることないでしょう? ちょっと面白すぎるよ」
「俺が望んでやったんじゃねぇよ」
セイは給仕からワインをひったくり、ぐいっと飲み干した。
「髪を切ってもらったら、こうなったんだ」
「でも、おばさんは、都の貴族はこういう髪形が好きだからって言ってました」
庇うようにいったアルの顔に、人の影がかかった。
巨躯の男が、三人の前に立ったのだ。
「それはもう、二十年以上前の流行りだ」
フィーザス・オーウェン。
居並ぶ騎士の中で、見目の良さも、圧倒的な存在感も群を抜いている。目も覚めるようなエメラルドグリーンの上着が、かすむような美貌だ。
妙齢の女性は常に彼を目で追い、嫉妬する男が自らを恥じるほどの神々しさ。
「なんだフィーさん。なんか用か?」
そんな彼に、セイは面倒くさそうな表情を隠さない。
「何故、貸衣装を着なかった?」
「貸衣装? ああ、お前が着てるようなやつか? やめろよ恥ずかしい」
「貴っ様だけには言われてくないわ!」
パーティーに先立ち、相応しくない恰好の者は、貸衣装を勧められたが、一般参加の武人たちのほとんどはそれを断った。
在野で戦う名もなき戦士は、自分のこだわりを押し通す者が多い。
「聞いてなかったのか? これはお世話になってる人に作ってもらったんだ」
「何も捨てろと言っているのではない。場にふさわしい恰好をしろ、と言っている」
「ああ、お前の馬鹿げた鎧みたいな?」
「師匠! 失礼ですよ!」
フィーザスは、割って入ったアルに目を向けた。
「気の毒に、このような男が師では騎士道の何たるかも学べないだろう?」
「はあ……」
フィーザスは、戸惑うアルの頭を撫でた。手甲でもしてるかのように、分厚く大きな掌だ。その外見に見合わず、コロコロと表情が変わる。
「熾烈な予選を勝ち抜いた少年だ。その武のセンスは疑う余地もない。どうだね、アル。この王覧試合を終えたなら、騎士団に入らないか? この国の騎士団は平民だろうと、実力のある者はわけ隔てなく出世することが出来る」
「いえ……」
「そうだ。それがいい。生活が落ち着くまでは、私の屋敷で暮らし、礼儀作法を学びたまえ。私のような素晴らしい騎士になれるぞ!」
「か、考えておきます」
グイグイと迫るフィーザスに、アルは思わずそう答えた。
「うむ。そうしたまえ。では早速だが、アル。もはや衣服については仕方がないが、こういった立食式のパーティーで食事をする際には、こう皿をもってだな……」
「おい! いきなり出て来て、うちの弟子を勝手に引き抜くな!」
「うるさい男だ。貴様の相手は明日以降、観衆の面前でだ。まあ、私に当たるまで負けなければの話だが」
「そりゃ俺の台詞だ。あっという間に負けても、名前だけは憶えてもらえるように
、あの馬鹿みたいな鎧に名前を刻むのを忘れるなよ。ええ? フィーさんよ」
「口の減らない蛮人が!」
またしても起こったセイとフィーザスの小競り合いにため息をついて、アルは食事を続けることにした。
セイと反りは合わないようだが、フィーザスは悪い人間ではなさそうだ。セイはセイで、悪口の応酬を楽しんでいる節がある。
とにかく、腹が減っていた。
リポリ村から出立するときにおばさんから借りた旅銀は、セイの酒癖と、女癖と、それに伴うトラブルと、その他もろもろセイのおかげで、すっかり底をついていた。
「厄介な師匠ね」
アルがボヤくと、ムイカは面白そうに相槌を打った。
彼女は、時折やって来ては口説こうとする男どもを、冷たくあしらいながら、アルの話を肴に酒を飲むことに決めたようだった。
「そうなんです。とにかくお酒と、女の人が好きで……剣の腕だけは確かなんですけど」
「そりゃ、この場にいるってことはそうなんでしょうね」
「ムイカさんも……」
「ムイカでいいよ」
「……ムイカも、有名な賞金稼ぎなんでしょう?」
「あたしのこと、知らない?」
アルはバツが悪そうに頭をかいた。
「すみません。田舎者なんで」
「そうか。まあ、イヤでもそのうち知ることになるよ。お互い敗けなきゃね」
アルは頷きながら、また大きなエビを口に入れた。リポリ村では新鮮な魚介類を食べる機会が少ないのだ。
「そういえばアル。キミ、得物はどうするの?」
「どうって?」
「まさか、今日抱えてた木刀でやるわけ?」
「師匠の言いつけなので。試合なら、切られるも、打たれるも、大差ないって」
「ホント、冗談みたいね。それで賞金が持って帰れるの?」
「僕は八位以内。師匠は二位が目標です。一番になると、領地とか、爵位とかあるんでしょう?師匠は、そういうのいらないらしいんで」
「まあ、アレが騎士団ってのもねぇ。あたしも適当なところで負けようと思ってるけど」
「ムイカも賞金目当て?」
その問いに、ムイカはちょっと眉を上げて見せるだけで応えなかった。
「ま、ともかく無事に終わると良いね。あたし、あんたたちのこと気に入っちゃったからさ」
「どうしてですか?」
「面白いから」
ムイカは片目をつぶって見せた。
宴もたけなわ。延々飽きもせずに喧嘩をしている男と、その弟子を除いて、武人たちは、それぞれ物見高い貴族に囲まれ、話しかけられている。
戦歴、得物、人品骨格。
鼻息荒く答えるものもいれば、物語のように語る者もいる。名声や、職を得ようとする武人にとっては、これはまたとないチャンスなのだ。
「では、君は天下十剣にも勝る勇者かね?」
そこかしこで、この質問が飛び交い始めた。誰ともなく答える。
「天下十剣など、暇な民草の無責任な噂です。お互いが戦ったわけでもないのに、アレは強い。アレは弱いなどと」
「左様ですな。確かにあの名高い段景亮や、サグ・サールナートのような本物の実力者もいましょうが……千人を斬るだの、万軍を打ち破るだのと、講談師が面白おかしく脚色したものに過ぎません」
「まったくです。むしろ、この王覧試合のように広く募った場で、公明正大に決着を付けてこその天下十剣でしょう」
「面白い話をしておるな」
その太く圧のある声に、場が静まり返った。
豊かな白髪を丁寧に撫でつけた巨躯。ニウルス国王が、いつの間にか会場に紛れていたのだ。
色を失って膝をつこうとする貴族たちを押しとどめ、ニウルス王は笑った。
「よい、せっかくの宴を邪魔したくなかっただけだ。続けてくれ」
「は、しかし……」
「天下十剣は虚妄かね?」
応えるものはいない。
自身でも幾たびの戦場へ赴き、華々しい戦果を上げてきた武王に、こと武に関して軽々に口は挟めない。それを感じてか、ニウルスはひとりごちるように口を開く。
「私はそうは思わんのだ。だからこそ、この国に一人くらいは十剣を召抱えたいと思っているのだがね」
「は。愚言をお許しください」
「よいと申すに。その方らが信じられぬのも、無理はないと思う。私も、この目であの段景亮を見なければ、こうはならなかっただろう」
ニウルス王は恐縮する貴族たちの肩ごしに、遠い昔を見る目で語った。
「……ん? あそこで何やら騒がしいのはオーウェン伯ではないか?」
「はっ……そのようで」
フィーザス・オーウェンとセイの言い争いは、いつの間にか酒の飲み比べに発展していた。国王の登場にも、周囲の白眼視にも気づかず、すでにワイン樽が半分も空きそうな勢いだ。
ニウルス王は含むように笑った。彼が最も天下十剣に近いと思っているのは、ほかならぬ、あの美しい親衛隊副隊長なのだ。
「ははっ。まるで戦場のようだな。若いというのは羨ましいことだ」
構わぬ。という手振りをして、ニウルス王は武人たちに、声をかけながら会場を歩いて回る。
ニウルスにはもう一人、目にかけた人物がいた。
「おぬしは、アル……であったか?」
「あ、あ、はい。そうです。王様」
アルは、突然話しかけてきたこの国の最高権力者に、背伸びをするように姿勢を正した。
「あそこでオーウェン伯爵と酒を飲み比べている男の弟子とか」
「そうです……え? 飲み比べ?」
振り返ると、セイはすでにテーブルにもたれかかり、なんとか立っているような状態だった。すぐにでも止めたいが、王に背を向けるわけにもいかない。
「実はな、予選からおぬしの戦いぶりは見ていたぞ。セイとやらはひょうひょうと何をしているか分らんうちに勝っていたが、おぬしの剣筋を見て確信した。それは東の刀法であろう? あの男の顔つき、名もそのようだが」
「は、はい。そうです。師匠の家に伝わるものです」
「何という流儀じゃ?」
「僕はただ、連城と聞かされています」
「レンジョウ? ふむ。東方の武技は細分化され過ぎていて、流儀を聞いただけではわからぬな」
「彼の国では、そういうモノが多いそうです。分派も多いし、そこから神流とかいろいろな派生がそれぞれに名乗るのだとか……」
「うん、うん。なるほどな。実に興味深い。セイにも是非話を聞いてみたいが――」
盛大にテーブルをひっくり返す音が、ホールに響き渡った。
「――また次の機会にしようか」
「師匠!」
アルはセイのもとに走り寄った。
「何してるんですか!」
「お、う。アル。どうだ。フィーさんは、倒れたか?」
「倒れてるのは師匠だけ――」
またしてもテーブルが倒れる音。貴婦人たちの悲鳴。
「――でもないですけど。飲み比べでは、負けましたよ。先に倒れたのは師匠です」
「くそぅ。あれだな。体の、体格の、おかげです」
「さ、帰りましょう。宿舎を用意してくださってるみたいだから……う、重い!」
「アルぅ。お前、フィーさんの、あの、騎士のあれに、あれか?」
「騎士団ですか? まさか。行ったりしませんよ」
「でも、おまえ。将来考えたら、カリンと結婚したり、所帯もつなら、騎士の、あれが、いいんじゃないか? 給料でるし」
アルは笑った。
「結婚なんて、そんなことまで考えてません! 第一、僕が騎士団に行ったら、誰が師匠を起こすんですか? ほら、しっかり立って!」
「ふふん……ざまぁみろ、フィー、フィーザ……フィーさんめ」
馬車は吐きそうだからと、二人は案内に先導されながら夜道を歩き、あてがわれた宿舎に転がり込んだ。
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