第二章 <Ⅱ>
県立埴輪山高校一年七組に、昼が来たー。
あたしと
「来ないなら、こちらから行くまでだ!」
青深が、横咥えにした
「どこにー?」
ハート型のチョコレートを手にして固まっていた陽蕗子が、子ウサギのような目を丸くする。
「
青深の目が据わっている。背後から陽炎のようなものが立ち昇っているのは錯覚だろうか。
「カチコミすか、親分?」(カチコミ=殴りこみのこと・極道用語)
ちょっと訊いてみた。
「
また殴られた。ギャラリーにはウケている。
「それがいい! そうしよっ!」
陽蕗子のふっくらした頬に、輝くような笑くぼが浮かんだ。
「今日?」
「そうだな。部活の後だから、時間は――」
「ちょっと待って。今日は、そっとしといた方がいいと思うよ」
あたしが考えながら口を挟むと、青深の横目が「なぜ」と尋ねた。
「だって、久し振りの学校で、めっちゃ気疲れして寝込んじゃったのかも知れないでしょ。今日も来るつもりでいたのに、来られなかったんだとしたら、本人はメゲてると思うし」
「なるほどな」
こいつに(気疲れ)という感覚があるかどうか疑問だったが、青深は謙虚に頷いた。
「そうかあ。時雨はこういうの鋭いんだよね」
陽蕗子がこくこくとうなずく。
「そうか。よし、それなら――」
腕組みをした青深が言った。
「明日から週末まで中間考査だ。ならば……」
ふと見ると、ななめ後方でラグビー部が半身になって身構えている。
「日曜日だ。校庭に集え!」
「がってん!」 「がってん!」 「ガッテン!」
野太い声がひとつ混じった。
日に焼けた拳を掲げたラグビー部が、広い肩をすくめて頭をかいている。手元の弁当箱が異様にデカい。
「すまん。つい――。はなしが聞こえてしまって。俺にもできることがあれば手伝うぞ」
すると。
「うちも手伝うよー」
「白銀のこと、気になってたんだ!」
「ヤバいよねー」
「俺も混ぜて」
「このコアラ、貰っていい?」
「ヤバいだろ」
教室のあちこちで耳をそばだてていた同級生たちが集結してきた。
「共感してくれて、ありがたいよ」
青深がまぶしげに目を細めてギャラリーを見渡した。お前はどこのイケメンだ。
「実を言うと、時雨が言い出したんだ。こいつがどうしても白銀に会いたいって」
青深がそう告げると、どよめきが湧いた。
「桐原。なんか、ありがと!」
「泣ける!」
「時雨、ナイス!」
「ヤバ過ぎる」
あたしの周りが笑顔で囲まれている。誰か、助けて。
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