第47話 三条大橋
車窓に見えてきた三条大橋。あれが東海道の終点だ。
鴨川を越えると少し前から並び始めていた辺りの建物は益々増えていき、その密度と理路整然さにこれが都なのかと圧倒される。
「ここのようだね」
浅井教官がそう言いながら前の車に続いて通る門は、左右にある門柱は整形された石が正に柱のようにそびえ立ち、守衛が開けた門そのものは鉄の細い棒を格子状に組み合わせたものであった。
駐車場に車を止め降りると、岩根さんに続いて建物の入り口へと向う。この間も周囲を見渡せば道との境は塀ではなく、土台とその上に鉄製の柵という具合に仕切られていると分かる。
そして警備の立っている正面の入り口から建物に入ると、岩根さんが秘書と知っているからだろう。止められることも、話しかけられることもなかった。
「確認してくるのでここで待っていてください」
岩根さんに言われ、一階の待合所と思われる広い場所で待たされる。こげ茶色の低めの卓と、挟むように置かれた革の張られた四つ椅子は共にいい値段がしそうだ。
「座ってみようぜ」
長三郎が浮かれ座ると霞まで座る。
「フカフカでチュ」
「革の下の綿も柔らかいな」
さっきまで車で座っていたのだからと気に掛けないでいたが、ちょっと座ってみようかと誘惑にかられたとき岩根さんが戻ってきてしまう。
「どうぞみなさんこちらへ」
議員が待っている部屋まで通されると、そこは三階であった。
外からの見た目で三階建てとは分かっていたけど、偉い人はやっぱり高いところが好きなようだ。
「始めまして、神宮院議員の
目の前のおっさんはすべての髪を後ろに流し、黒光りするそれは染めているのか何かをつけているようだ。それに室内でやる仕事にしては色黒のような気もする。日焼けなのだろうか? 若作りしたいのかもしれないけど、年相応に見えるのは議員なら悪くないのではとも思うのだが。
「時間もないので本題に入るが、これからの話は秘密の話だ。まあ内容を聞けば君たちも、口外はしないだろうけど」
遠くから来たことを労う言葉もなく、最初からとても嫌な感じだ。
「頼みたいことがある。それは、まもなくある官庁街の正月休みに合わせて、元老院議員
「それは秘密裏に侵入して調べるということですか?」
堀田先輩が代表して話すと、大渕議員の答えは正直なものであった。
「そう言う事だ。彼は元老院の山縣一派の
「しかしいくら正月休みと言っても警備はいますし、許可なく入るのは不法行為です」
「それは私だって分かっているよ。だから秘密の話なんだ。君たちは遺跡のこともよく知っているようだし、今更不法行為でどうこうなんて言える立場じゃないだろう。私の頼みも必要なんだと理解してほしい」
つまりこういうことだ。
思ってのことであっても、遺跡で使った俺の武器も付いていた石も無断使用であるし、祭壇より先に進んだことも違反なのだから、この話も必要な違反なのだと。こちらが断れないように持っていっといて頼みとは、言い訳がましい。
それよりこのことを知っているのなら、青い光りや霞のお兄さんがあの後どうなったのかを教えてほしいところである。
俺は大渕議員の態度に頭にきていたが、こんな状況でも堀田先輩は依頼の達成のためには情報と装備がなければ無理だと大渕議員自身の手伝いを引き出そうとする。
「分かった。浅井教官を通してそれは行う」
非常に危険でやっかいなことをやらなければならないのに、どうしてかも知らされることなく簡単に決まってしまい面会は終わった。
この後、大渕議員が用意した街外れの旅籠に移動する。
「車が二台ないと移動できないので私も来ましたが、浅井教官は連絡役ですので作戦は部隊の六人でやることになります」
入り口で立ち話をする岩根さんは続けて“その日までここで待機しているように”とも言い、そのまま折り返し議員会館に戻っていった。
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