サクラの図書館

犬野サクラ

「寂しいか」


「寂しい?」



センリィは僕にそう聞いた。



「どうして?」


「……聞いてみたくて」


「うーん……いいや、寂しくはないかな」



僕はそう、答えた。



「ユキはどうしてそう思うの?」


「それは…センリィがいるから。寂しくなんかない。」


「でも私、いつも傍にいるわけじゃないよ」


「それでも、傍にいてくれる。信じてくれている。心の奥深くにまで踏み込ませてくれる。だから僕は、寂しくなんてないんだ。」


「そっかぁ」



センリィは、優しく頷いてくれる。けれど、どこか腑に落ちないような顔だった。



「ねぇ、センリィは?」



僕は訊ねる。



「私?私は……」


「寂しいよ。やっぱり、寂しい。ユキと会えない日はいつも寂しい。」


「傍にいたいのに、いられなくて、不安で、落ち着かなくて。」


「何かに縋りたいのに、腕が空を切るばかりで、自分を抱くことしか、出来なくて。」


「頼りない自分の肩に手を乗せる度に、腕と胸の間に出来る空白を覗く度に、ここに在るべきピースが無いみたいに寂しくなる。」


「まるで自分という存在が完成していないみたいに」


「──寂しい」



僕は、センリィの独白を静かに聴いていた。

彼女が質問した理由も、彼女の心境も、僕はわかっている。

人の気持ちがわかる、なんて傲慢だろうか?

僕はそう思わない。なぜなら、彼女は自分の気持ちを知って欲しいからだ。

僕と考えが違うことを。そして、その考えの相違から生まれる空白のことを。



だから僕は、黙って彼女を掻き抱いた。


彼女の寂しさが埋まるように。少しでも長く、寂しさを感じさせないように。

長く、長く、長く、ずっと長く。



また会うその日まで、彼女が寂しくならないように。

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