アンロックコード

「ノーミスなら緑色の付箋のところだけで50点、黄色のところもやれたら70点取れるはずだ。ノーミスならね」


え……と小さく口を開いたきり、固まっているあかりに、正親は参考書を差し出す。


「特進は授業の内容も試験の問題も違うから、僕や沖田のノートは役にたたないよ」


ばつが悪そうにもじもじするあかりに正親は続ける。


「せっかく用意したんだし、僕には必要ない。ほら」


正親が参考書をさらに差し出す。

あかりが正親に歩み寄る。

落ち葉を踏みしめるカサッコソッという音が、やけに大きく響いた。


「ありがとう」


そう言ってあかりは参考書を受け取ると、胸に抱きしめるようにして抱えた。

「じゃあ」と立ち去ろうとする正親をあかりが呼び止める。


「あの………………ごめんなさい」

「いや、別に」


再び立ち去ろうとする正親を、もう一度あかりは呼び止めた。


「あの……」

カサリと落ち葉の音が響いて、正親が振り向く。


「あの…………世界史も……」


数秒の間をおいて、正親は言った。


「今、持ってない。ロッカーにあるから、勝手に持っていっていい。僕はもう記憶しているから返却不要だ」


「あの……でも……」


「ああ、大丈夫だろ。試験前のこの時間だ。特進の廊下には誰もいないよ」


「あ、そうじゃなくて、ロッカーの場所が」


「ああ、3列目の一番下」


「あと……鍵の番号」


正親は小さく舌打ちして横を向き、マフラーに顔を埋めるようにして答えた。


「1219だ」


あかりがはっと顔をあげたとき、正親はもうあかりに背を向け、足早に歩き出していた。




ひとけのない特進の廊下をあかりが歩く。靴下のままの足に床が冷たい。


(3列目の一番下……1219……)


心の隅を痛めながら、あかりがロッカーを開ける。

きちんと整頓されたその中に『世界史』と書かれた一冊のファイルを見つけて手をかけたとき、傍らのポーチにくっついたフィギュアが目に入った。文房具が入ったナイロン製のポーチのファスナーにぶら下がっているその子に見覚えがあった。

2年程前の限定品。欲しかったが手に入らなかった。だから、覚えてる。


(この子、前にも会ったことがある……)

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