第92話「白兵戦」
背の高い建物が立ち並ぶ中を、6機のブリッツが周囲を警戒しながら進んで来ていた。グビアの二脚型のブリッツは紺をベースに灰が混ざったモザイク状の迷彩で、宙域で画像解析されにくいようになっている。
市街でその迷彩はかなり目立ち、建物内部に入り込んでいたニーナは一足先にその進軍を見つけていた。
「歩兵はなし?」
建造物が立ち並び、路地を一本挟んだ向こうで何が起きているのか見通せない市街戦において、歩兵はかなり重要な位置を占めている。
いくら4mほどの装甲目標としては小さいブリッツでも、小回りは歩兵の方が利くし、路地や隙間から後方や側面に浸透されれば脅威だ。
実際広場前は浸透してきた歩兵たちに苦戦していたし、戦車ほど強固な守りを持たないブリッツは情報戦の強みを封じられると歩兵に弱い。惑星ナーベルでも逃げ回っていたのはそのためだ。
そもそもの発生が重装備歩兵の延長であり、状況に応じて歩兵に守られながら火力支援や情報支援をするか、歩兵を守る装甲になりながら相手を引き付けるか。いずれにせよ歩兵部隊に組み込まれてこそ真価を発揮するのがブリッツだ。
「ってそれはこちらもか。武装解析表示」
敵レガシーの接続を警戒して重力制御が可能なブリッツで固めた味方側のように、向こうもミシェルの力を警戒して歩兵を下がらせたのかもしれない。
ニーナの声でコックピット側面に表示された、敵ブリッツの装備の解析結果は全てミサイルの表記になっていた。
「6機とも……? 近接戦闘の方が良いか。ブレード成形。予備刃二本まで」
画像解析だけの判断だが、敵の肩に装着されているのはミサイルないし何か大型のものを射出する機構のようである。電子戦が封鎖されている今なら脅威になるようなものではなかった。
ブリッツ腕部は基本的に砲塔ではあったが、給弾の故障や隠密、咄嗟の近接用にブレードと呼ばれる2mほどの刃を形成することが出来る。
素材を高品質に圧縮する必要があるためコストパフォーマンスは悪いが、当たりさえすればブリッツの装甲程度簡単に貫けるので、ニーナは白兵戦で重宝していた。
敵機が建物の角に身を潜め、2機ずつのペア3組で連携して進んでくる。ニーナは建物前までやってきた先頭のペアをやり過ごし、次が来るのを待った。
壁面を崩しながら侵入した部分は敵機の進んできている道とは反対側にあるため感知されることはないはずだ。ニーナは自分から見て右から左へ進んで行くブリッツたちを身動きせずに見守った。
何事もなく進んだ敵先頭ペアは、次の角に陣取ってその先を警戒し始め、次のペアが音を出さぬよう二脚を使って前進してくる。
そしてそのペアが建物前を通過しているところへ、ニーナは左腕のブレードを突き出した。
建物の建材を易々と切り裂き、突如現れた刃。
前方ペアが何事もなかったことと、前後に味方が居るという油断があった一機へ、その刃は突き立った。
左脇から操作盤のあるあたりへと見事に斬り進んだ刃に、中の兵士は驚愕。いきなり横合いから現れた刃が自身の両脚を切断しつつ、操作盤本体を破壊したのだ。兵士は叫び、両脚断面はパイロットスーツが応急処置として覆っていく。
ニーナは中から右腕の機関砲を撃ちながら、壁面を破って道路へと躍り出た。反応したのはペアのうちもう一機のブリッツ。咄嗟に左腕で射撃を防いだ敵ブリッツは、ブレードを形成していないのもあってか右腕射撃で応戦しようとするも、遅い。
ブリッツの脚部踵を接地し、車輪による加速で一気に距離を詰めたニーナは敵に組み付くように体当たりをして脇から刃を突き入れた。
ものの数秒で二機を無力化したニーナは後方に居た二機へ向け、今刺したばかりのブリッツを抱えながら加速していく。敵からすれば味方を盾にされている状態であり、敵が躊躇した隙にニーナは一方的な射撃を開始した。
後方警戒をしていたペアはニーナの射撃に晒され、攻撃を諦め左右に退避。先に進んでいたペアは最初にやられたブリッツが邪魔で射線が取れなかった。もちろんニーナは計算してその影になるようブリッツを走らせている。
左右の建物角に退避したペアはニーナを迎撃する構えだ。姿勢を低くして右腕の機関砲をそれぞれが向けている。
敵の狙いはニーナの脚部。盾とされたブリッツでカバーしきれず、かつ当たったとしても生存した兵士を損なわない位置だった。
ニーナは右角のブリッツへ射撃を集中させ、そちらの敵を建物裏へと追いやる。この付近の建物はブリッツの射撃に耐えられる建材ではないため、敵は貫通してくる弾を避けるため奥へと逃げて、射手であるニーナに見失わせる必要があった。
そうやって右からの時間を稼いだうえで、肩の排熱機構が動く。肩装備、レンジアウトの照射を開始しつつ、ニーナのブリッツはその身を反転。後ろへ掲げた敵ブリッツを右腕で支え、左腕は刃を引き抜いた。敵は前方だけではない。
ニーナから見て後方、先行していたブリッツペアが跳躍や壁面登坂によって射線を確保し、今まさにニーナを撃ち抜こうとしているところだったのだ。
後方はそれによって阻止され、レンジアウトは左手敵が出て来る箇所を照射し続ける。動き回る相手に当てるにはレーダーの力が必要だったが、ただの路地に照射するだけなら手動で行えた。
敵は脚部狙撃に出たかったようだが、踏み込めばパイロットが死ぬ領域となった以上迂闊には出て来られず、ニーナが今何をしているのか見ることもできない。
ニーナはその牽制で敵の動きをコントロールし、踏み止まったであろう敵の位置。建物の裏に居るブリッツの居場所を見抜き、左腕の刃を射出した。
電磁誘導の滑空砲を用い、刃部分を加速。一瞬で大気と、建物を切り裂き飛来した刃は何の衝撃も与えず、その裏に居たブリッツのコックピットを通過していった。
いつの間にか斬られていた兵士は、自身の身に何が起きたのか理解することなく絶命。飛び抜けた刃は血すら残さず5棟ほど壁や柱を貫通していった。
『そこまでだニーナ・ハルト伍長』
いつの間に回復したのか、次の行動に移ろうとしていたニーナに通信が届く。それはテッド・ブライアン中将からのものだった。
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