第3話

 イブから一夜明け、今日はクリスマス当日。とは言えわが国ではクリスマスそのものよりもイブの方が盛り上がる傾向がある。

 街の賑わいもピークを過ぎ、一部の商店ではすでに年越しに向けての準備が始まっている。

 俺はというと、昨日食べたケーキの余韻に浸りながら夕飯の材料を買いに近所のスーパーへと来ていた。

 昨日は贅沢をしたから今日は質素にいこう。そんな事を考えながら店内を物色していると、それは突然俺の目に飛び込んできた。


 クリスマスケーキ 全品半額


 なん…だと…


 見るとそこには売れ残ったたくさんのケーキが並べられ、そのどれもが半額となっていた。思わず手を伸ばしそうになり、しかし踏みとどまる。

 昨日1ホール食べたばかりじゃないか。さすがに二日続けて食べることはないだろう。だいいち、いくらなんでも飽きる。

 俺の中にある自制心がそう訴えてきた。しかし、それと同時にこんな心の声も聞こえてきた。


 昨日食べたのは生クリームのケーキ。だがここには他にもたくさんの種類がある。最後まで迷っていたチョコトリュフのケーキだってあるんだぞ、半額で。


 確かにそうだ。それにこんなチャンスは滅多にない。いや…だが…


 買うべきか、買わざるべきか。相反する二つの心の声に挟まれ、俺は迷う。

 そして…


 数分後、店を出た俺の手にはチョコトリュフケーキの入った箱が握られていた。



 どうやら今宵も甘い夜を過ごすことになりそうだ。

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