らぶトモ 第4話 【泉水 登場】

次の日の放課後。


 学校の校庭からは、部活に勤しむ声と学校を出た後のアフターを楽しむ計画を立てる生徒など、

授業が終了した安堵感で満ちていた。


 一際でかい声が校庭から聞こえてくる。

「オリバーポーズを知ってるかい?」「オリバーポーズを知ってるかい?」

先行した叫ぶ声を反復する生徒たち。あの男しかいないあんな変なジョギングリズムとるやつは。

筋肉マッチョサイエンティストの角田教諭だ。角田教諭は、レスリング部の顧問だ。


「サーイドチェストは知ってるかい?」(生徒復唱)

「オリバーオリバー」(生徒復唱)

「サイドサイド」(生徒復唱)


 初めの頃はどこかしらであの声にツッコミ、いじりなどあったが、相手にしないことが一番という結論に

行き着いた。


「さて、買い物して帰るか」

「大吾今日は一人かああぃ?」

「なんだ太助か」

「なんだとはご挨拶じゃないか」


 こいつはクラスメイトの太助。高校入学時に日本に帰ってきた帰国子女だ。日本語は勉強してきたらしいが、

まったく身になっていないと思う話し方だ。そして、俺の唯一のプライベートでも遊んでいる友人だ。


「今日奈々は友達の家に遊びに行くって言ってたからさ」

「OH〜僕はてっきり、奈々ちゃんがついに親離れならぬ兄離れをしたのかと思ったよ」

「なに言ってんだ?時折友達と帰ってる時もあっただろうが。お前と話してるとアホになる。帰るぞ」

「OH〜待ちたまえ大吾〜」


——奈々は友人の部屋にいた。

「ほれ、お茶だぞ」

「ありがとう。いつ来ても泉水ちゃんの部屋って奇麗だし可愛いね〜。あ〜新しいぬいぐるみ増えてる〜。

今回のは、タヌキとキツネさんだ〜」

「気に入ってくれているならそれで良い。まあ、奈々の部屋もこんな感じだろ?」

「そんなことないよ〜。奈々掃除とか苦手だし、えへへ」

「まあそれは置いておいて。本題に入ろう」

「うん」


 泉水の部屋の雰囲気が変わった。只ならぬ緊張感が部屋を埋め尽くす。

「で?どうだった、お兄ちゃんの背中にワザとふたつの胸の膨らみを押し付けよう作戦は成功したのか?」

「それがね・・・・かくかくしかじか、つるかめつるかめ。という感じになりました・・・」

「そうか。奈々の兄上は、奈々のお胸でもさほど動じることなく、対処したのか」

「うん・・・奈々すっごく恥ずかしかったけど、いっぱい押し付けてお兄ちゃんが、奈々のこと1人の女性として意識してくれるかと思ったけど、普通に晩御飯作ってたよ。」

「なかなか手強いな。で?もう1つの作戦は?」

「うん、言われた通り、新しく下着買ってお風呂場に置いといたよ。それで、お兄ちゃんが転んだまでは良かったんだけどね」

「その後、ちゃんとツンツン台詞を言ったのだろ?」

「うん、言ったよ。教えてくれた通りに」

「おかしいな・・・世間では大抵の男子は今回のシチュエーションで、相手を女子として認識しないはずはないのだが。これを見てみろ」


 ドサっとテーブルの上に、女性週刊誌などが置かれた。


「うわ!すごい資料!」

「この雑誌類には、総合的に男子とは女の子を異性としてはっきりとしたもの(下着や体の凹凸、スカートの見えそうで見えない部分など)を常に意識してしまう生き物と呈しているのだがな・・・。兄上は例外なのか?」

「泉水ちゃん、こんなにいっぱい資料見ながら、奈々にアドバイスくれるなんてすごく優しいね。泉水ちゃんは

奈々の一番のお友達だよ〜」

「う、うぷ!こ、こら離さんか!苦しい!いきなり抱きしめるな」

「あ、ごめんなさい。だって嬉しくてつい」

「まあいい。本当にその胸は凶器だな」

「もう泉水ちゃんの意地悪!奈々この胸気にしてるんだから!」

「贅沢な悩みだな。それは置いといて。結果兄上殿を抱きしめられたのだからそれはそれで良かったな」

「でもでも、奈々が期待してるほわ〜んって感じにならなかったよ〜難しいね」

「ほわ〜んって・・・これが学年順位、上位者の言葉かね?ま、勉強以外あほ確定だからな奈々は。そこが可愛いとこでもあるがな」

「もう泉水ちゃんいじわるだ!あほ言わないでよ! 真剣に悩んでるのに〜!」

「それより」

「スルーされた・・・」

「いいからこれを見たまえ」

「なに、ネット?男女のコミュニケーションはこれで解決!あなたの思いは必ず届く! いいねこれ〜!」

「いいかよく聴けよ?今回は、結構大胆な行動に出るぞ」

「大胆って、昨日のもだいぶ大胆だったと思うよ」

「胸を押し付けるなど子供だましみたいなものだ、これはさすがに大人だぞ」

「どれどれ?」


 泉水ちゃんが勧めてきたアドバイスは、

「泉水ちゃん!これ・・・キ、キキキキスの上手なおねだりガイドだよ!」

「ああそうだ!女性として意識してもらう最大の方法だ!」

「う、う〜ん・・・お、お兄ちゃんと、キッスか・・・」


「奈々、お前が好きだよ」

「お、お兄ちゃん、奈々のだよ」

「ンンンンんんん〜〜〜」


「おいこら!なに唇すぼめて、パクパク開け閉めしてるのだ?」

「は!いけない、いけない、えへへへ」

「ま、何を考えてたかはわかるがな」

「え?わかるの?恥ずかしいよ〜」

「奈々、今回のこのキス作戦、やる気はあるか?」

「うん!もちろんだよ!お兄ちゃんとキスするよ!

 う、うわああああ、言ってて恥ずかしすぎるよ!!でも女の子からしていいのかな?」

「なに弱気なことを言っているのだ。最近では女子からキスをおねだりすることなど、当たり前なのだぞ」

「え〜そうなの?みんな勇気あるよね〜。奈々もう今から緊張してきたよ」

「今から緊張しても、疲れるだけだぞ。まずはどういうシチュエーションでキスを誘発させるかだが・・・」

「サイトにはなんて書いてあるかな?」


 サイトには、彼の正面に立ち、手を後ろにハニカミながら、上目遣い、そして斜め45度に顔をあげて、


「泉水ちゃん、これ無理」

「なぜだ?」

「だって 奈々、お兄ちゃんより、背が高いもん!!」

「く!そうだった!!なんてことだ!」

「ふにゅー、お兄ちゃんともっと仲良くなるために勉強しようと思ったのに、これじゃ前に進めないよ〜。

 泉水ちゃんどうしよう〜!」

「う〜む。このサイトでは、男子が女子より背が高いことが前提のアドバイスだったか・・・」


 どうしよう、どうしよう、そうしよう〜〜〜!!

 お兄ちゃんを見下げてキスなんて、やだよ〜〜!

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