モノクロのディストピア
落花生
クロの世界
第1話おろかな英雄殺しの話
世界を救うためだ、とカミサマは何十回も言った。
最初は、それが正しいと信じて私はずっと戦ってきた。
英雄が世界を滅ぼすことは本当で、私が英雄を殺さなければ、多くの人々が死ぬ。だから、英雄一人を殺さなければならない。
誇らしかった。
本当に、本当に、誇らしかった。
人間に似せて作られただけの自分が――本物の人間を生かしているということに優越感すらも感じていた。殺して救っていることに、なんの違和感も感じなかった。
私は、愚か者だ。
人を殺すことに違和感を感じたのは、何千人目かの英雄を殺したときであった。彼女は死ぬ間際に娘の名を叫び、娘は私の背中を刺した。
私は、死ななかった。
死ななかったが、混乱した。
娘の目は、私を恨んでいた。
私は世界を救った。
なのに、どうして恨まれるのか。
私には、まったく分からなかった。
「それはね、大切な人を失ったからだよ」
私に明確な答えをくれたのは、私が殺す予定の英雄だった。彼は、なぜか私のことを知っていた。そして、私の迷いを言い当てた。
「一度だけ、英雄の誰かを信じてごらん。そうすれば、君は学ぶことができるよ」
繰り返すが、私は愚か者だ。
私は、男を信じて殺さなかった。
人間として生きて、英雄が救った世界を冷静に観察している気になっていた。ただ眼前の問題から目を放して、自分が賢いから進んで勉強している気になっていた。
世界を救うためだ、とカミサマは言った。
救うには、英雄を殺さなければならない。
なのに、私は殺さなかった。
だから、今この瞬間にも世界が死にそうなのは私のせいなのだ。
「――ごめんなさい」
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