第9話敗北の味

剣を打ち合うには少々窮屈な部屋で2人の学生が剣を交える。

1人は少年。

黒髪に黒眼でそのまだ幼さの残る顔立ちと小柄な容姿をしている。

その片手には文字が刻印された頭身まで漆黒に染まった、まるで真っ暗な夜空から作り上げたかの様な剣を所持している。

もう1人は少女。

白髪緑眼で少年を見下ろすぐらいの高さのある、少年よりも年上と思しき女子生徒。

剣呑な雰囲気を漂わせており、その原因は鋭い目つきと片手に握られた剣だということは少女が視野に入った瞬間に理解できる。

それは、その少女が握った剣が『緋剣』アカクシアということが一番の理由であった。

それは辺りを一瞬で火の海に変え、全てを焦がす宝剣の代名詞である。

かつて火を操る《超能力型》のスキルを持つ人間が死に際に自分の魔力を全て剣に移した事が発祥らしい。

だが今日の戦いに置いては屋内という事もありその真価は発揮できない。

少女と対峙する少年もまた理事長室を破壊すまいとスキルのほんの一編の力で戦っている。

お互いがセーブした状態での戦闘だが、それ故か純粋な力はこの戦闘が始まってからすぐに明白となった。

剣を交え、幾つもの軌跡が部屋中に駆け巡る。

オリヴィエが放つ鋭い連撃を剣で全て弾き、逆にオリヴィエの胴体目掛け、剣の側面で力一杯叩きつける。

呻き声をあげるオリヴィエは即座に剣を振り、アーティスとの距離を取る。

オリヴィエは苦痛の表情を浮かべながらアーティスを睨みつける。

一方アーティスは剣を交える前の余裕の表情は消えているが汗一つかかず、まだまだ余裕といった様子だ。

「まさかここまでとは・・・」

息を整えてオリヴィエがもう一度しっかりと剣を正面に構える。

次の一撃で決まるだろう、とアーティスは察したのかアーティスも真剣を腰の下まで下ろし下段の構えを取る。

合図は無い。互い、どちらかのタイミングによって剣が交わり勝敗はつく。

そして、暫時静寂が互いの身体の緊張を強めた。

そして、刹那の如く速さで両者は剣を交える。

カギン–––––––。

奇妙で歪で喉を掻き毟りなくなる様な音と共にアーティスが手にしていた漆黒の剣。その刀身の半分が赤いカーペットの敷かれた床へと落下する。

残響する鋼同士の衝突の音。

だが、互いがその余韻に浸って場合ではない事を忘れ、再度静寂が走る。

だが、その静寂を破ったのは意外なものであった。

「くくくっ・・・あははははっ。」

冷笑でも、嘲笑でも無い。

それは純粋な笑みであった。

その笑い声の主はアーティスの剣を叩きおったオリヴィエその人であった。

オリヴィエのその笑い声はアーティスの緊張を解くのには十分過ぎる程であり、それを以ってこの場の空気を変える事は容易であった。

あまりの事にポカーンと口を開けて柄にも無く唖然としているアーティスにオリヴィエが剣を鞘にしまい笑いかける。

「あぁ、ごめんごめんこんなに熱くなれる相手は久しぶりだったからつい堪えられなくなってしまったよ。すまないねせっかくの雰囲気が興ざめだね」

と、先程までの剣呑な雰囲気は微塵も残さず、ただ笑顔でオリヴィエは笑ってそう言った。

アーティスの折れた剣はスキルで生成されていた為、個体を保てなくなり光の塵となり虚空へ消えた。

それを見届けたアーティスは、オリヴィエの方を一瞥し、初めて敗北を知ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る