ファミレス的日常生活

トラ

フライドポテト

『チャイムの音で家に帰宅』


 これが俺、加藤優希かとうゆうきの俺なりの合言葉。

 普段、学校に登校することもないような俺が学校に来ただけでも珍しい。

 もともと人と話すのが苦手で、中学までは大した人数でもない学校だったのでなんとかやっていけていたが、現在通っている高校は県内トップのマンモス校。親に無理やり入れられたが、毎日通うなんて到底無理で、こうやって不定期での保健室登校になってしまっている。

 もちろんだが、何か部活動をしている訳でも無く、特にクラブや習い事、塾に通っている訳でも無い。

 そんな高校生活が半年近く続いている。

 担任の先生や親には


『せめて、家にいる時間だけでも有意義な時間にしなさい』


 なんて言われるが、家にいる時間は常にゲーム、マンガ、アニメに消費されている。

 そんな生活が毎日これからも続くだろう。

 ―そう、この日まで思っていた。


 優希の住んでいる町は、田舎すぎず都会すぎずで、学校から家までの帰り道には田んぼがあればゲーセンや大型スーパー、マンガ屋さんなどいろいろある。

 その日は少々小腹が空いていた。

 コンビニやスーパーでおにぎり1つ買えば満たされるのかもしれないが、無性に誰かが作ってくれた暖かい食べ物を食べたいと思った俺は、ファミレスに行くことにした。

 だからと言って別に一緒に行く友人、ましてや恋人なんているはずもない。


 …テレレンテレレーン

「いらっしゃいませー!何名様でしょうかー?」


「…ひ、1人です」


 ファミリーレストランなんて名前なのに1人と思われないか不安になり、つい声がか細くなってしまった。


 家に引きこもってばかりの俺はファミレスなんて指折り数えられる年齢の頃に来たのが最後で、それ以来記憶にない。

 メニュー表を開くのがとても新鮮に感じる。

 何を頼めばいいかわからずにいた自分に、席を案内してくれた店員さんが―


「あのー、フライドポテトなんていかがでしょう?揚げたてで美味しいですよ?」


 と突拍子もなく言ってきたので


「は、はい、お願いします。」


 結局今夜のお菓子はフライドポテトに決まった。


 ―それから数分後。

 窓側の台に案内された俺は1人でいることが恥ずかしく、顔を突っ伏していた。

 ファミレスに来たことを今になってとても後悔している。


「お待たせしましたー!フライドポテトです。お皿の方お熱くなっていますのでお気をつけくださーい」


 久しぶりに見るフライドポテト。

 台に置かれたポテトからほんの少しの塩の香りと温もりが鼻とお腹を刺激する。

 一口食べる事に口に広がるじゃがいもの風味。そしてフライドポテトの温もりが心を包み込む。


「…この感じ、久しぶりだ。」


 あまりの感動でつい独り言となって口から出てしまった。

 周りをキョロキョロ見渡す。

 誰にも見られていなかったのを確認してからまた一口、僕はまたポテトを頬張った―


 空っぽになった皿を目の前に僕はまた来てもいいかななんて思う。

 両親がどちらも仕事に出ている我が家では人が暖かい料理を作ってくれることはなく、料理ができない僕は自分で作ることもできず、親が買ってきて台所に置かれているコンビニ弁当を食べたり、菓子パン、冷凍食品を食べたりなど、人の温もりを感じることが少ない日々だった。

 そして今日、ファミレスのポテトの温もりだけじゃなく、些細なものではあったが久しぶりに店員さんという人間の温もりにも触れた俺は、


 またファミレス来よう


 そう思いながら俺は帰路についた。

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