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「…………さようなら、ユーリ・ヴァレンタイン」
夜明けを迎えた空港の近くにある、小高い丘の上。その頂上に立ち尽くすクララ・ムラサメは火の玉が墜ちていく夜明けの空を見上げながら疲れた声色で呟くと、肩に担いでいたFIM-92"スティンガー"地対空ミサイルの発射機を足元に放り捨てた。
東から昇る太陽で段々と明るくなっていく空を見上げながら、そこを墜ちていく真っ赤な火の玉めいたジェット機の残骸を見上げながら、クララは小さな瑞々しい口元にマールボロ・ライトの煙草を咥える。カチン、とジッポーを鳴らして火を付けると、ふぅ、と溜息のような紫煙混じりの息をついた。
ユーリ・ヴァレンタインの乗っていたプライベート・ジェット機を撃墜したのは、彼女が此処から撃ち放ったスティンガー・ミサイルだった。飛んでいくジェット機をロック・オンして撃つだけの、ただそれだけの簡単な作業だった。たったそれだけの簡単な行程で、ユーリ・ヴァレンタインは二度と大地に足を着けることは無くなったのだ……。
「呆気ないものだね、こうして眺めていると」
墜ちていく火の玉を眺めながら、紫煙を燻らせるクララが小さくそう呟く。吹き込む朝風がすみれ色の髪を揺らすと、頭の後ろで結った短い尾もまた軽く風に靡く。白い肌を撫でるそんな朝風は何処か心地よくて、そして東から新しい一日の始まりを告げるギラギラとした日差しは、何だか無性に清々しかった。
「外道の最期としては、一等豪華な花火だったのかもしれないね」
そう呟きつつ、クララは小さな息をつく。そして彼女は感じていた。全ての終わりと、新しい始まりを……。
「ハリー、これが僕なりの君に対するケジメだ」
最後に、此処には居ない彼に向けてクララは呟くと。咥えていたマールボロ・ライトの吸い殻を足元へ棄て、そして靴底で火種を揉み消してくるりと踵を返す。
そうして、クララは歩き出した。闇の中へ身を溶け込ませるようにして、闇の中へ消えていくように。マールボロ・ライトの小さな残り香だけを、そこに残して…………。
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