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「クソッ、クソッ、クソッ、クソッ……!!」

 一方、"ワルキューレ・システム"の管理者権限剥奪と、そしてシステムそのものの物理的自爆は、プライベート・ジェット機に乗り上空に舞い上がったユーリ・ヴァレンタインからでも確認できていた。

「なんてことだ、なんてことだ、何をしてくれた……!!」

 血の滲む包帯を巻いた右手は使わず、無事に残った左手だけでヴァレンタインはノートパソコンのキーボードを叩く。しかし"ワルキューレ・システム"そのものが物理的に消え去った今ではどうすることも出来ず、幾ら操作しても表示されるのはただ"disconnected(切断)"という無機質な文字だけだった。

「アアッ!!」

 そうすれば、苛立ちを露わにヴァレンタインはノートパソコンをテーブルの上から薙ぎ払った。開きっ放しのノートパソコンがプライベート・ジェットの床の上を跳ね、そしてディスプレイの液晶が割れる。

「殺してやる、殺してやる……!」

 ともすれば、窓の外を睨みながらヴァレンタインは呪詛みたく呟いていた。血色の悪い顔で、眼の下に濃いくまなんて作りながら。

「ハリー・ムラサメ、そして園崎和葉……! 殺してやる、いつか必ず、何をしてでも殺してやる……!」

 ヴァレンタインの呟く言葉は決意というより、本当に呪いに近いモノだった。

「何日、何ヶ月、何年、いや何十年掛かろうとも、貴様ら二人は必ず殺す。地獄の果てまで追い詰めて、死ぬより酷い苦しみを味合わせてやる……! 私の手からジェーンも、"ワルキューレ・システム"も奪った貴様らを、私は死んでも許さない……! 絶対に殺す、殺してやるからな……!!」

 怒りに打ち震えるヴァレンタインが窓の外を眺めながら呪詛めいた言葉を延々と呟いていると、するとその時だった。プライベート・ジェット機のコクピットから、機長であるパイロットの絶句する声が聞こえてきたのは。

「み、ミサイルぅ!?」

 それは、明らかに狼狽した声だった。

「何だと――――」

 何事かと思い、ヴァレンタインが窓の外を見ようかとしたその瞬間、彼の乗るプライベート・ジェット機は爆発し、粉々に砕け散りながら火の塊となって落下していく。

 自らの身に一体何が起きたのか、そして誰が何を撃ったのか。それすらをも知らぬまま、ユーリ・ヴァレンタインは爆発炎上し墜落するプライベート・ジェット機と運命を共にした。

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