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「――――突入!」
占拠された美代学園の周りを、警察の所轄、機動隊、銃器対策班、そして対テロ特殊部隊SATの大軍団が包囲していた。誰かの放ったそんな号令と共にSATを中心とした突入部隊が学園の全方位から突入を仕掛け、そして間も無く学園を占拠したテロ・グループとの大銃撃戦が始まる。
そんな中、現地に展開する警察の指揮部隊の中には、警視庁・公安部の刑事である鷹橋冴子の姿も混ざっていた。何を隠そう、此処までの展開の速さは全て彼女の手引きによるモノなのだから。故に、彼女が此処に居ても何ら不自然なことではなかった。
「状況は?」指揮車の中、手近なオペレーターに冴子が問いかける。
「SAT第一班、第二班が旧校舎と体育館を制圧。新校舎の方からは依然として激しい抵抗を受けていますが、狙撃班も既に配置に着いています。制圧も時間の問題でしょう」
「周囲に居た不審車両も、確保したのよね?」
「抜かりなく」と、オペレーター。
「強制検査の結果、どうやら電波妨害装置を備えていたようです。携帯電話の回線を初めとする周波数帯を、周囲数キロの範囲に渡って妨害する装置です」
ミリィ・レイスの言った通りだ、と冴子は内心で思っていた。やはり、彼女の諜報能力は桁外れだった。"スタビリティ"が関わっていることを突き止めた件といい、今回の一件といい。いい加減、彼女にたっぷり報酬を支払ってやらねばならないだろうとも冴子は思う。それ程までに、今回のミリィ・レイスの功績は大きかった。
「……しかし、敵は何者なのでしょうか」
そんな思案を巡らせていると、オペレーターが冴子の方を振り向かないままでポツリ、と不審そうな顔で口を開いた。
「ここまでの練度と、そして海外製銃火器を初めとした質の良すぎる装備。とてもじゃないですけれど、そんじょそこらのテロ・グループとは思えない」
「貴方が知る必要はないわ」と、冴子。「ニード・トゥ・ノゥ。言い方は悪いけれど、下っ端の貴方が知るべきことじゃないの。悪いけれどね」
刻一刻と進行する制圧作戦の推移を腕組みしつつ無言で見守りながら、冴子はあの二人に思いを馳せていた。ハリー・ムラサメと護衛対象・園崎和葉。あの二人は、無事に窮地を脱することが出来たのか、と……。
(信じるしかないわね、貴方の腕を。信じてるわよ、五条晴彦……いいえ、ハリー・ムラサメ)
今はただ、この学園を解放することだけに集中しよう。この不運にして哀れな美代学園と、生き残った数少ない幸運な未来ある生徒たちを。
「これ以上、死なせてたまるもんですか。これ以上、貴方たちの好きにさせてなるものですか」
貴方たちみたいなのに好き勝手させないことこそ、私の役割よ――――。
確かな決意と信念を胸に、しかし冴子は腕を組んだまま、ただ状況を見守った。学園内部に突入したSATたち突入部隊の無事と武運を祈りながら、ただ状況の推移を見守っていた。
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