第三条:依頼内容と逸脱する仕事はしない。
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「和葉、君のバイクは何処に?」
「……学園の裏の方、いつもと同じ茂みの中に隠してある。でも、なんで?」
「俺の車は表側、遠すぎるしリスクが大きすぎる。悪いが、君のバイクを使わせて貰うことになる」
そんな短い会話を和葉と交わしながら、ハリーはQBZ-97自動ライフル片手に空き教室からチラリと廊下へと顔を出し、周囲に敵の気配が無いかを注意深く探る。廊下に気配が無いことを確認すれば、「来い、行くぞ」と言って和葉の手を引き、旧校舎からの脱出を開始する。
「ホントに、逃げられるの!?」
「やってみなけりゃ分からん、そんなこと!」
手を引かれながら一緒になって走る和葉に問われたハリーは、そう答えた後に、
「だが、俺を信じろ!」
廊下を走る脚を止めないまま、彼女の方を振り向かないまま。彼はただ、前だけを見据えたまま力強く言った。
「……分かった、貴方を信じる」
すると、何故か和葉は安堵したみたいに小さく微笑む。しかしそんな彼女の微笑みを、背中を向けるハリーが気付くことはない。
そうしてハリーが和葉の手を引いて廊下を駆け抜け、階段に到達した時。その時ハリーは、階段の下から上がってくる四人の敵兵と運悪く鉢合わせしてしまった。
「和葉っ!」
突き飛ばすようにして和葉を後ろに逃がしながら、同時にハリーは片腕でQBZ-97を腰溜めに構えて引鉄を引く。
「きゃっ!?」
短い悲鳴と共に和葉が尻餅を突く頃には、ハリーが片腕で構えるQBZ-97自動ライフルからは銃口で瞬く凄まじい火花と撒き散らされる大量の空薬莢と共に、豪雨のような勢いで5.56mm弾が撃ち出されていた。
彼の強靱な右腕を、軽いが確かな重さを伴う小口径ライフル弾の反動が震わせる。あちらこちらに好き勝手暴れる銃口を無理矢理に制御しつつ、しかしかなり雑な狙いでQBZ-97を横薙ぎに掃射した。
すると、相対する四人の内、先頭に立っていた二人は腕や胴体にハリーの撃ち放ったライフル弾を喰らい、後ろへ大きく吹っ飛ぶようにして仰向けに倒れる。胸に着けた防弾プレート・キャリアのせいで致命傷には至らなかったが、しかし階段を踏み外すようにして大きく後ろ向きに吹っ飛んだ二人は、一様に踊り場で後頭部を強打した。
アレでは、仮に死んでいなかったとしても暫くは動けまい。階段という地形が、ハリーの味方をしたのだ。
しかし、後ろに控えていた二人はハリーを見るなり階段の更に下へ飛び退いていたから、撃ち放った弾を喰らうことはなかった。
「チィッ!」
――――二人はひとまず無力化、次は後方の二人だ。
大きく舌を打ちながら、ハリーの頭では凄まじい勢いで思考回路に電流が駆け巡る。
雑に掃射したQBZ-97の弾が切れると、ハリーはそれを思い切り階段の方に向けて投げつけた。唐突に飛んで来た自動ライフルに、一瞬だけ驚く残り二人の傭兵たち。
「引っ掛かったな……!」
二人が見せたのは、ほんの僅かな隙だった。しかし、それはあまりに致命的だった。
QBZ-97を投げた直後、ハリーはズボンのベルトへ雑に差し込んでいたスターム・ルガーSR9自動拳銃を両手で抜き、二挺拳銃の格好になりながら地を蹴り、階段の下方へ向けて思い切り飛ぶ。
着地し、くるりと一回転するように立ち上がれば、ハリーの両脇にはあの二人の姿があった。
「二人仲良く、あの世行きだ」
そうすれば、ハリーは起き上がりざまに両腕をクロスさせるようにして両脇の二人の顎先へとスターム・ルガーSR9の銃口を突き付け、そして無慈悲に引鉄を絞る。タン、と軽い銃声が二つ分重なって響けば、顎先から頭を撃ち抜かれた二人がバタリ、と
ひとまずの殲滅を確認すると、ハリーはついでと言わんばかりに先程後頭部を打って気絶した二人の眉間も撃ち抜き、それからスターム・ルガーSR9をズボンとベルトの間へ押し戻し、地面に転がっていたQBZ-97を拾い上げた。
「もう大丈夫だ」
QBZ-97の弾倉を交換しながら、視線を仰ぎ見ながらハリーが呼びかける。すると曲がり角から和葉がおそるおそるといった風な顔で顔を出してくるものだから、ハリーは小さく笑い「この通りだ」と肩を竦めてみせる。
「……驚いた、貴方って強いのね」と、おっかなびっくりといった足取りで合流しながら和葉が言う。
「当然だ」QBZ-97のコッキング・レヴァーを引きながら、ハリー。「こんな時の為に、俺が居る」
「それより和葉、急ごう。この調子だと、敵も続々と集まってくる……」
そう言って、ハリーは再び和葉の手を取り。そうして階下へと向け再び走り始めた。
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