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ミリィ・レイスからの緊急の報告が入るなり、その電話を繋ぎっぱなしのまま、すぐさまハリーと冴子は喫茶店を飛び出していた。
「乗りなさい、晴彦っ!」
運転席から顔を出す冴子に促され、駐車場に停められていた彼女のTVR・サーブラウに便乗するハリー。彼が助手席に滑り込むや否や、冴子はすぐさまエンジンを叩き起こし。そしてそのまま喫茶店の駐車場を暴力的な勢いでサーブラウに飛び出させた。向かう先は勿論、美代学園だ。
『……どうやら既に電波妨害もやられてるみたいだから、じきにこの電話も切れてしまうだろう。だがハリー・ムラサメ、十分に注意してくれ。現場には少なくとも、五十人規模の敵が詰めかけている』
冴子が警察関係者にあるまじき法外なスピードで公道をサーブラウでブッ飛ばす中、その助手席に座るハリーはスピーカー通話モードにしたスマートフォンからデカデカとミリィ・レイスの声を冴子にも聞かせつつ、彼女と話し続ける。
「……その中には、例の"ウォードッグ"も?」
ハリーが訊けば、『多分ね』とミリィが微妙な色で頷く。
『とにかく、気を付けたまえハリー・ムラサメ。あの
「……問題ない、俺の得意分野だ」
ミリィ・レイスの言葉に、ハリーがニヤッと不敵な笑みを浮かべながら答えると。するとミリィもまた『……そうだったね』なんて言いながら、電話口の向こうで小さく微笑んだ。
と、その直後に通話が突然切れてしまう。見れば、スマートフォンのディスプレイに表示される電波表示は圏外を示していた。
「電波妨害、か……」
これが、先程ミリィが言っていた"スタビリティ"の実働部隊による電波妨害だろう。ハリーはそう推測し、苦い顔でひとりごちながらスマートフォンを懐に戻す。
「晴彦、私も手を貸すわ」
そうすると、隣でサーブラウを操りながら、苦々しい顔で冴子がそんなことをハリーに向かって告げてくる。
「今回ばかりは、公安としても流石に見逃せない。もしミリィ・レイスの話が本当だとしたら、これは最早テロよ」
「いや、君は来るな」
しかし、ハリーはそんな冴子の提案を短い一言で断ってしまう。冴子は「でも……」と尚も食い下がろうとするが、しかしハリーはそれを「それより」なんて風に話を強引に進めつつ制し、言葉を続ける。
「冴子、君には事態の出来る限りの隠蔽工作と、事後処理の手配を可及的速やかに頼みたい」
「それって……」
「ああ」神妙な顔で、頷くハリー。「……どうやら、血を見ずにはいられない」
「……そう、分かったわ」
ハリーの言葉の意味を自ずと察してか、冴子はサーブラウを運転しながら、少し俯き気味でそれに頷いた。
やがて、冴子の運転するサーブラウは学園のすぐ近く、しかし少しだけ離れた辺りに到着する。ギャアアッとタイヤを盛大に鳴かせながら横滑りして停まったサーブラウの助手席から、すぐさまハリーが颯爽と降り立った。
「十分に気を付けるのよ、晴彦」
後ろ手にサーブラウのドアを閉めていれば、背中越しに冴子の案ずる声が聞こえてくる。
「分かってるさ」
そんな冴子の方を向かぬまま、ハリーは言いながら歩き出し。アルマーニのスーツに包まれた背中だけを彼女に見せながら、ただ軽く後ろ手を振ってやる。
「俺を誰だと思ってる?」
そして、ハリーはふとした時に振り返り、
「――――プロフェッショナルだ。こういうことには、慣れ過ぎてる男だよ」
オールバックに掻き上げた前髪の下に不敵な笑みを湛えながら、冴子に向かってそう言ってみせた。
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