イタズラ少年と妹

けんたろ

第1話

「ぶっ⁉︎」

盛大に吹き出したのは俺の親父である。漫画なら面白いがリアルで、しかもいい年こいたおっさんが口の中のものを勢いよく吹き出す姿は不快以外の何ものでもない。

「きったねぇな何やってんだ?」

「哲士、お前ウチの醤油瓶に何した⁉︎」

おっさんがマジギレしている。俺は今朝やったお茶目なイタズラを正直に告白した。

「コーヒーのかけられた目玉焼きはうまかったか?」

「ドゴッ」

…まさかのマジ殴りには多少驚いたが、まぁまだ想定の範囲内だ。何故ならウチの教育方針は「殴られなきゃバカは治らない」だからである。俺はこれも1つの正しい教育だと思っている。思っているが、あまりの痛さについつい文句を言ってしまう。

「暴力はんたーい^ ^」

「やかましいわクソガキが。いっつもいっつもいらんことばっかしやがって」

机を拭きながら俺にキレる親父である。今日も朝から元気100倍なんとかマンである。うんうん元気なのは良いことだ、と親父を見て考えた。

「で、どんな味だったのかしらん?」

「こ、このガキ…」

「兄貴、朝からうるさい。2階のあたしの部屋まで聞こえたんだけど」

2階から降りてきた妹が降りてきて早々俺に若干キレ気味である。妹は学校の中でも割と可愛いので結構モテている。名前は華という。ウチのカーストの中では母さんの次に高いところにいる。俺は一番下だ。

「お兄ちゃんって呼んでっていつも言ってるだろ?ほらほらプリーズ セイ お兄ちゃ」

「あ?」

「ごめんなさい嘘です冗談です殴らないで」

子供の頃に華にマジパンチで乳歯を折られた記憶が蘇る。あれは素晴らしい右ストレートだった。喧嘩の原因は確かプルキュアのおでこに第3の目を油性マジックで描いたことだったっけ?今まで散々そんなことばっかやってきたのでハッキリとは思い出せんが。

「高2になったんだから、もっと落ち着いたら?華のお兄さんってどんな人?って聞かれる度に困ってるんだけど。」

最近いっつもこんな事言ってるが…。俺が兄だと何か不都合でもあるのだろうか?まぁなんでもいいか。

「昔はあんなに素直でいい子だったのに。お兄ちゃん華をそんな子に育てた覚えはないわよ‼︎」

「…キモッ」

妹の視線は実に冷たいものだ。あっれー、昔なら笑ってくれたんだけどなぁ。時の流れは残酷だ。自分でも自分はかなりキモいことを自覚してはいるのだが、いかんせんこれが素の俺なのでどうしようもない。

「どうせならとことんキモくなるのも面白いかもな^ ^」

俺は0か100が好きなので割と本気でそう思っている。

「キモくない方向に頑張りなさいよ。あたしマジでキモい兄なんて嫌なんだけど」

「俺じゃどうやってもキモいだろ。なら面白いキモさでも目指そうか?それなら友達との会話のネタにもなるだろ」

「…べつに黙ってればそこそこいい線いってると思うけど」

「何?急に褒めてきて…あ!なんだかんだで俺の事すきなんやろ!可愛いなこのー❤️」

「兄貴のそういうところがキモいって言ってんの。そんなだから毎年バレンタインでうなだれてるんじゃないの?ホントやめて、そのキモい言動」

「お、おお」

今のはさすがの俺のハートでもダメージを負った。静かな拒絶が一番心に刺さることを初めて知った今日この頃である。

「お前らもう8時前やぞ。早よ行け」

机の上を拭き終わった親父が声をかけてきた。気づけばもう学校に行く時間である。

「机の掃除お疲れ様(笑)」

「あ?ええけん早よ行けやコラ」

「おー怖。逃げるが勝ちですよっと。華、いこーぜ」

「ちょっと待って」

華が後ろからぱたぱたとついてくる。俺のことをキモいだなんだと言ってくるが、こういうところは可愛いものだ。

「「いってきまーす」」

華と揃って家を出た。家を出るときまだ親父は俺にブツブツ文句を言ってるようだった。そんな親父が職場に持って行く弁当のおかずを先程ばれないように盗み食いし、「ルパン参上‼︎」と書いたメモを入れておいた。さぞかしびっくりだろう。帰ってからの楽しみが増える、とこっそり喜んでしまった。



「よっ!グッモーニン三好!」

華と並んで登校途中、急に声をかけられた。俺のクラスメートの西井だ。俺と違いリア充の人気者だが、なぜか気が合い入学当初からつるんでいる。ちなみに、三好というのは俺の苗字だ。

「はいはいグッモーニン」

「華ちゃんもグッモーニン!」

「…おはようございます。西井先輩」

心なしか華のテンションが下がる。華は西井のノリが少し苦手なようだ。俺は結構好きなんだがなぁ。

「ところでその右ほっぺどしたん?」

「朝飯テロを敢行したら親父がキレた」

「何やったん?」

「なに、ちょっと醤油瓶の中身をコーヒーに入れ替えたのに気付かなかった親父が目玉焼きにかけて食っちまっただけだ」

「ぷっ!」

西井が肩を揺らしながら笑う。どうやら気に入ったようだ。

「それサイコー‼︎ちょっと俺も明日やってみるわ」

目をキラキラさせながら本当に楽しそうだ。こっちも悪い気はしない。

「ハァ」

華が俺達の様子を見て心底くだらない、といった感じの溜息をついた。

「わかってないねー華ちゃん」

「…なんですか?」

「こういうくだらないイタズラって割と思いつかないもんなんだよ。その点コイツのイタズラって毎回くだらないけどスッゲー面白いんだ。イタズラは少年のロマンなんだ(キラッ)」

そんなに褒められるとちょっと嬉しい。

「いやぁ、それほどでも^_^」

バカ2人に華はウンザリしている。

「ハァ〜…」

本日2度目の華の溜息は少し長い気がした。


学校に着くと校門で華と別れることになる。1年と2年では校舎が違うからだ。

「じゃあ、あたしこっちだから」

「あぁ。また後でな」

「華ちゃんじゃーねー」

華と別れ西井と2年の校舎まで歩く。

「そういや華ちゃんって彼氏とかいないの?」

突然西井がそんなことを聞いてきた。

「いないらしいが…急にどうした?」

突然の質問に少し驚いてしまった。

「いやぁサッカー部の後輩に、華ちゃんのこと好きだっていう奴が何人かいるんだよ。それで彼氏いるのか確認して欲しいってお願いされちゃって。」

「それでこんなこと聞いてきたのか。いい先輩してるな。」

こういう心の広さというか優しさというか…西井は俺にはない美点が沢山ある。これがリア充と非リアの心の貧富の差か、と少し落ち込む。

「いやぁ別に。これぐらい普通だろ」

…コイツはやっぱりいい奴だ、と感じた。

「ところで何で学校じゃいっつもそんなテンション低いんだ?外じゃいっつもはっちゃけてるじゃん」

「そりゃ華が家とかのテンションはキモいから、外じゃやらないでっていうんでね」

「お前ら兄弟ってホントお互い好き合ってるよな」

「いやぁ別に。これぐらい普通だろ。」

「コラ、真似すんな」

「ばれたか」

まぁ俺も他の兄弟より中がいいのかもしれない、とおもった。

ひとしきり笑い合った後、教室の前で別れる。俺は1組で、西井は2組だ。


今日も学校での1日が始まる。








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イタズラ少年と妹 けんたろ @kenyamauchi

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