終章

「う~む……まさか、共に死を選ぶとはな。予想外にもほどがある。もちろん可能性の一つとしては想定していたが、無いと踏んでいたのが見事に外れたわけか。まぁ、そういうこともある。とはいえ、本当に勝ってしまうとは驚きだ。いや、思った通りだけどな? だけれど、そうだとしても、誰が勝てると思うよ。まさにジャイアントキリング――秩序を保つためには、我ながら良い人材を選んだものだ。さすがは――」

「おい、自称・神。もしくは煙に紛れたクソ野郎。とりあえず状況の説明をしろよ。例えば、どうして俺が爆発の中、空中で逆さまに固まっているのか、とか」

「まったく、神の名乗りを邪魔するとはな。で――どうして今の状況になっているのか、か? それがわからないノーウッド・Rでは無いと思うのだが」

「ま、大方、死の直前というか魔王が破裂する直前に、あんたが俺の時間を止めたのか次元をずらしたのか……要は関与できないような能力で俺のことを止めているんだろう?」

「理解不能の状況で、その答えまで辿り着くのは相変わらず勝算に値するな。神にそう言わせているんだ、誇ってもいいぞ」

「価値がねぇ。いや、それはそれとして――目的は? あんたの言う通りにこの世界の――この国で戦争を起こした発端である魔王を倒したが、あくまでも相討ちだ。俺に、元の世界に帰る資格はないだろ」

「ああ、君がそう言ってくることもわかっていた。だが、どうだろうか。神的には、それなりに働いてくれたと思っているし、与えた仕事も熟してくれた。充分に元の世界に戻るだけの条件は満たしているのだが……ま、ぶっちゃけ神だし? 大抵のことはどうとでもなるんだが――どうする?」

「ぶっちゃけんなよ。仮にも神なら」

 これは試されていると考えていいだろう。

 どれだけ適当なことを言っていても目の前にいるのは自称・神だ。神であることには違いないのだから、おそらく元の世界に戻りたいと言えば戻してくれるのだろう。だが、それだと何だか腑に落ちない、というのが本音だ。自称・神の言う通りに仕事は熟したし、犠牲は払ったものの、この世界を救うことはできた。結果だけを見れば、レベルも何もかも足りていなかった俺が魔王を倒せたのは、よくやったと言えなくも無い。

 それでも納得できないのは俺の問題だ。

 何も一人で倒せるとは初めから思っていなかったが、最終的にはあの四人の、いや五人か。裏で全てを仕切っていた白鷺に、その部下である烏丸、鳩原、梟谷、鷲尾――この五人がいなければ絶対的に勝ち目は無かった。それは元の世界で八年後の俺が魔王を倒した時にもミカやイアン、まだ見ぬ仲間たちの助けがあって勝てたのだろう。誰かの助けを借りなければ勝てないことはわかり切っていたこと――だとしても。

「俺は……もういい。このまま死なせてくれ」

「何故だ? 理解ができない。人というのは死を恐れるものだ。そして、不死を――死の直前には必ず生を求める。ノーウッド・R、君は違うと言うのか?」

「……どうだろうな。元の世界でウジクに負けた俺にも、こっちの世界で魔王と引き分けた俺にも――もう、戻る世界は無い。一度は死んで、ここが二度目の生だった。それが計画されたものだとしても、死んだことには変わりがない。そうだろう?」

「肉体の消滅が人としての死を表しているのなら、確かにそうだろう。元の世界でも、こちらの世界でも今は肉体が存在していないからな。だが、向こうの世界では仲間の二人が君の帰りを待っている。それでも戻らないのか? 神は約束を違えぬぞ?」

「あんたが約束を守るかどうかはどうでもいい。問題なのは――そうだな。問題なのは、元の世界に俺が帰らずとも、向こうにいる魔王を倒す者がいるのかどうか、だ。神ならわかるだろう? 八年後に俺が倒すはずの魔王は、その先に俺がいなくても倒す戦士がいるか?」

「それは……ああ、いる。今より十年後に別の戦士が魔王を倒すことになるだろう」

「だとしたら尚更、俺が元の世界に戻る理由が無くなったな。……おい、あんたは神なんだよな? だったら、何でもできるのか?」

「大抵のことは出来る。が、直接関与することはしないと決めている。だからこそ、君のような駒を動かすやり方をしているわけだ。つまり、世界の歴史に直接関与しないことなら何でも、だ」

 つまり、魔王がこちらの世界に来たことは神ですら予想できないアンタッチャブルだったということか。次元と領域すら超える魔王は、それこそ神と同等の力を持っていたと言って過言ではないのだろうから、元の歴史に戻るように神が助力をしても良さそうなものなのに、それでも世界に関与することは避けたということ。

「それなら、俺の願いはあんたの望む世界にするものかもしれないな。元の世界とこの世界から――俺に関する記憶を消すことは出来るか?」

「出来るが……本当にいいのか? 元の世界に戻すことも出来るのに、それすらも望まず記憶まで消してしまえばノーウッド・Rという存在は本当に――本当に、いなくなってしまうんだぞ?」

「ああ、そのほうが良い。元の世界のミカとイアンにとっての俺は足手まといにも近かったし、何よりも最弱の俺より別の誰かと組んだほうが実力を発揮できるだろう。こちらの世界に関しては言わずもがな――俺を死んだことにするのではなく、存在そのものを消したほうが色々と都合が良いはずだ。出来るのなら、やってくれ」

「記憶の改竄と因果律の調整か。どれも容易い。しかし、どこかに綻びは出る。君の存在が抜け落ちた空白が、必ずどこかに残る。記憶があればその穴も埋めることが出来るが、消してしまえば永久に埋まることが無く、その相手を苦しめることになる。それでもいいのか?」

「それでも、俺のことを憶えているよりかはマシだ」

「……決意は固いか。わかった。望みどおりに二つの世界からノーウッド・Rについての存在の記憶を消そう。それでいいか?」

「ああ、助かる。これで漸く終わる。ずっと――ずっとゆっくり眠っていなかった気がするんだ。最後はいつだったか……そう、あれは――」

「ノーウッド・R――二つの世界からは君の存在を消した。今はゆっくりと休むといい――今は、な」


                              END?

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