サンタとトナカイとHollyNight

「さぁ、マリー。あたし達も早速着替えましょう」


 クロー魔に促されて、マリーは嬉しそうに頷くと二人して部屋へと消えて行きました。

 その直後です!


「な……なんじゃこりゃ―――っ!」


 隣の部屋に入っていた直仁様が、これでもかと言う絶叫を上げたのでした! あまりの大声に、準備に訪れていたスタッフ達が飛び跳ねる様に驚き、その手を止めて固まってしまいました!


「おいっ、クロー魔っ! なんでしか無いんだよっ!?」


 部屋から飛び出して来た直仁様が、クロー魔とマリーのいる部屋の前で大声を張り上げました!


『ちょっと……なーに、スグー? I'm changing clothes着替えてるんだから so please be quiet静かにしてよ!』


 扉の向こうからはクロー魔の声。でも、外に出て来ようとはしませんでした。


「いや、ちょっとは俺の話をだな……」


 全く取り合って貰えない直仁様の気勢も、肩透かしを食って弱い物になってしまいました。


「文句は後で聞くわよ。それよりも、Change yourさっさと clothes quickly着替えなさい!」


 逆に窘められて、直仁様はブツブツと文句を溢しながら元居た部屋へと戻って行きました。





 突然、マリーとクロー魔が着替えていた部屋の扉が、大きな音を立てて開かれました!


「ちょ……ちょっと、クロー魔っ! まだ私の着替えが終わっていませぬ―――っ!」


 そこから飛び出して来たクロー魔の後姿に、声だけでも恥ずかしがっていると分かるマリーの声が追いかけてきました。でも当のクロー魔は、そんなマリーの抗議など全く聞いていません!


「……What isこの……this sound音は……?」


 いつになく真剣な表情で周囲を見回すクロー魔は、そのまま窓辺へと歩き外を確認しています。

 マリーと違い、すっかり着替えの終えているクロー魔は、実に素晴らしい水着を身に付けています!

 真紅を基調としたワンピースの水着。腰にヒラヒラと白いフリルが付き、胸元には柔らかそうな白の綿毛であつらえたポンポン。実に見事なクリスマスカラーのワンピースです!

 彼女にしては露出の少ないチョイスですが、クロー魔の抜群なプロポーションがバッチリ際立つ、妙に体のラインにジャストフィットした水着です! これならば、クロー魔の魅力を余す処なく強調出来ています!


「……もうっ! クロー魔ったらっ! 誰かに見られたらどうするのですかっ!?」


 そんなクロー魔の後を、文句を並べながらマリーが追いかけてきました。

 マリーの選んだ水着は、クロー魔とは真逆にかなり扇情的な物です! クロー魔と同じくクリスマスカラーである赤を基調としたビキニ! 彼女の豊かなボディを、確りとアピールできています! 腰にはクロー魔と一味違うフリルが施されて、中々にセクシーです! そして何と言っても、その大きな胸元にはこれまた大きなリボン! まるで自分がプレゼントですと言わんばかりです!

 

「この……ローター音……。明らかに戦闘ヘリだわ……。それがMultiple複数……。真っ直ぐこっちに向かってるわ」


「ええっ!? 戦闘ヘリですとっ!?」


 マリーが驚きの声を上げると同時に、直仁様が使っていた部屋の扉が開け放たれ、中からは直仁様が……!? す……直仁様!?


「あ、直仁っ! クロー魔が……ぶふぅ!」


 マ……マリーも……余りの……余りの状況に、話しきる前に吹き……噴き出してしまいました!


Ahahahahaアハハハハ! スグーッ! It really suits youとーっても似合ってるわ!」


 クロー魔はある程度想像していたのか、マリー程言葉を失うと言う程ではありませんでした! それでもその声は実に楽しそうです!

 ここで仕事をしていたスタッフ達も、必死で笑い出すのを堪えています。それもそのはずで……。


「すぐ……直仁っ! 何でトナカイの着ぐるみなんて着ているのでするか―――っ!?」


 そうです! 直仁様は、頭にはトナカイの被り物! 上半身と下半身には茶色くふさふさの、そしてその手足には御丁寧に蹄のついた着ぐるみを身に付けていたのです! お腹と両太ももだけがあらわになっている処を見ればこれも……女性物のようです。

 ニョッキリと生えた角も愛らしいですが、律儀に着けた赤い鼻が笑いを誘います!


「……クロー魔、何かあったのか?」


 直仁様はマリーの問いかけに取り合わず、真剣な表情でクロー魔に質問しました。

 しかし……直仁様の真顔に、トナカイの着ぐるみ……。どれ程シリアスを演出しても、その顔と姿のギャップで全て台無しです! もはやマリーは、声こそ出してはいないものの、お腹を抱えて膝を突き、KO寸前でした!


「……ええ……まだちょっと距離があるけど、こっちに向かって戦闘ヘリが数機ってところね」


 クロー魔も、顔を赤くして笑いの第二波に堪えていましたが、内容が内容だけに何とか抑え込む事に成功した様で、真面目な顔に戻って直仁様に回答しました。

 それにしてもクロー魔……直仁様に女性物の水着や着ぐるみをあてがうなど……完全に直仁様を玩具にしていますね。





 直仁様達が外に出て暫くすると、真っ暗な夜空を劈くローター音が遠く鳴り響いているのが聞こえました。さっきは殆ど聞こえませんでしたが、今ではボックにもはっきり聞こえる程です。


「……They came来たわね…….」


 そう呟いたクロー魔が向ける視線の先には黒い物体が数機、夜空にあって月灯りに浮かび上がっていました。


「……あ……あれは……?」


 ようやく立ち直ったマリーが、少し怯えた感じで質問を投げ掛けます。


「さぁ? 見る限りでは、どう考えても真っ当な部隊とは思えないけどね。スグは知らないけど、あたしはBuying resentment恨みを買ってるからね―――……」


「俺も大して変わらないさ。ひょっとしたら、今日逃がしてやった海賊たちかも知れないしな」


 台詞は格好良いんですが、どうにも直仁様の姿はふざけて居る様にしか見えません。


「あいつらが此処まで辿り着くのを待っても良いんだけど……折角のPartyパーティIt gets ruined台無しになっちゃう.」


 そう言ったクロー魔は、手で銃を模すると、その標準をそのヘリコプターへと向けました!


Huhuhuフフフ……。スグにもマリーにもまだ教えてなかったっけ……。あたし……新しい“擬音”を覚えちゃったんだ―――……」


 嗜虐的な光をその瞳に湛えて、クロー魔はまるで酔っているかの様に一人そう呟きました。直仁様の表情に変化は表れませんでしたが、マリーは驚きの表情を浮かべて絶句していました。


「見せてあげるね……チュインッ!」


 クロー魔がそう声を出した瞬間! 彼女の指先から、正しく光の線……光線が放たれ、一直線にヘリコプター郡へと向かって行きました!

 そしてその直後!

 パッと光を上げて、1機のヘリが爆炎に呑まれました!

 そして僅かに遅れて……けたたましい爆音が此処にまで届いたのです!


「きゃ……きゃあっ! あの爆発は……クロー魔が?」


 爆発音に驚きの声を上げたマリーが、恐々とクロー魔に声を掛けました。先程クロー魔が取った一連の行動を考えれば、ヘリの爆発は間違いなく彼女の仕業です。


That's rightそうよ.範囲は狭いんだけど、スピードと攻撃力は中々なんだから」


 振り返ったクロー魔は、少し得意気な笑みを浮かべてマリーにそう説明しました。

 確かに、閃いたと思った瞬間にはヘリが爆発していました! そのスピード、そしてこの距離からヘリを撃破する攻撃力は中々のものです!


「ほえ―――……。凄いですの―――……」


 僅かに顔を引きつらせながら、マリーはそう感想を述べます。それを聞いたクロー魔の顔は満更でもない様子でした。


「それじゃあ、俺の能力も披露してやるか」


 一連の成り行きを見ていた直仁様が、一歩前に出てそう宣言しました。


「あら? スグも何かNew ability新しい能力Getゲットしたの?」


 クロー魔の顔には、今度は興味津々と言った表情が浮かびます。それに対して、マリーの表情には不安いっぱいと言った感情がありありと浮かんでいます!


「ああ……着ぐるみって奴も初めて着るけど……これはこれで中々面白いな」


 そう答えた直仁様は、右手をすっと上げて、遥か遠くを飛んでいるヘリコプターに狙いを定めます。

 そしてその右手……ひづめとなっている掌を、ギュッと握り込みました!

 その途端!

 またしても1機のヘリコプターが、突如ひしゃげたと思うと大炎上して墜落して行きます!


Wowワオ! 遠く離れた対象を握り潰せるのね!?」


 驚きを露わにしたクロー魔が、歓喜に近い声で直仁様に尋ねました。


「ああ、そうみたいだな。もっともこの掌じゃあ、上手く狙いを付けれないんだが」


 確かに、手の先まで着ぐるみに覆われ、掌は蹄になってしまっていては、それ程器用に扱えないのは仕方ありません。


「能力に制約を掛けられて、更に装備にまで制限されるとは……何とも皮肉な話だ」


 そう自嘲気味に笑った直仁様が、再度右手を掲げて……握り込みました! そしてまたしても、1機のヘリが撃墜されます!


「あたしも負けてられないわねっ!」


 テンションの上がったクロー魔も、自分の能力を連射します! 次々に業火を纏い、火の尾を引いて海へと消えて行くヘリコプター達……。


「へぇ―――……まるでChristmas treeクリスマスツリーみたいね……」


 墜ちて行くヘリを見ながら、クロー魔がポツリと呟きました。言われてみれば、爆発しながら落ちて行くヘリコプターの様は、まるで飾り付けた樹に見えなくもありません。……かなり悪趣味ですが。


「あはは―――……」


 マリーもこの意見には、笑って答えるしか出来ませんでした。


「じゃあ、これで完成だな」


 直仁様が最期の1機を握り潰しました! 爆炎に包まれたヘリは、丁度樹に見える墜落跡の頂点で光を発し、クリスマスツリーの頂点で光る星を演出している様でした!


「へぇ―――……Good at jokingやるじゃない.」


 クロー魔の呟きを最後に、3人は暫くその光景を眺めていました。しかしヘリが海へと消えて行くのに、それ程時間はかかりません。程なくして、周囲は暗闇と静寂に包まれ、ただ波音だけが聞こえていました。


「さあ、遅くなっちゃったけど、Xmas Partyクリスマスパーティを始めましょうか?」


 そして最初に口を開いたのはクロー魔でした。


「うう―――……とてもそんな気分にはなれませぬ―――……」


 目の前で一方的な蹂躙を見せつけられては、普通の感性を持っているマリーの言い分ももっともです。


「今年も……そして多分来年も。俺達の生活はこんなもんさ」


 ポフッとマリーの頭に蹄を置いた直仁様が、彼女を慰める様にそう言いました。そんな直仁様の行動に、マリーも少しは心のつかえが取れたかのようでした。

 直仁様とクロー魔の住む世界は、確かにこの様な事が頻繁に行われます。意地悪な言い方ですが、こんな事でいちいち気後れしていては、この世界で暮らす事など出来ないのです。


「うう―――……直仁―――……」


 顔を真っ赤にしたマリーが、呻くように直仁様の名を呟きました。


「さぁ、行こうぜ」


 そう言って直仁様がロッジへ向けて歩き出しました。それにクロー魔が、何の迷いもなく付いて行きます。


「ちょっと―――っ! 直仁―――っ! クロー魔―――っ! 待つのですぞ―――っ!」


 遅れたマリーが、慌てて二人の後を追いかけて行きました。

 彼等の本当のパーティが、これから漸く始まる様です。

 何とも慌ただしい聖夜ですが、せめて今日これからは楽しい夜を……。


 Merry Christmas in Summer.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る