とどめさすじゃん

「あはは…… 私、お役に立てましたか?」

 エデルトルートが口から吐血しながら、幸せそうに微笑んでいる。手にはクラフトの媒体であるオ―ブが固く握りしめられていた。

 お互いに立てないので二人並んで横たわっているような形になっている。

「なんで、こんなこと…… 隠れてろっていったのに……」

「ムラさんが危ない目に遭ってるのに、見捨てるなんてできません。ムラさんに救ってもらったこの心はムラさんに捧げます」

 エデルトルートの美しい声を、耳障りな声が遮った。

「ああ、そいつが霧を創りだしてたクラフトの使い手じゃん~。忘れてた~。幻覚を見せられる能力、ってところか~」

 ぷー、くすくすと下品な調子で女は笑いだした。

「弱いもの同士かばい合って、なにができるんじゃん? 結局は無駄死にしただけじゃん、でもいいじゃんそういうの」

「私に決して勝てないのに、努力して努力して、そして血反吐を吐いて這いあがってきた奴をめちゃくちゃにする。そういうのってサイコーじゃん」

 こいつ……

 コカトリスに喰われかかった時以上の怒りが込み上げてきた。

「殺してやる」

「どーやって? 私より弱い、おまけに手も足も動かない。お前はダルマ以下じゃん」

 女がなぎなたを振り上げた。

「まずそっちのちっこい子からじゃん」

 そのまま、エデルトルートの細い首筋目がけて振り下ろす。エデルトルートは固く目をつむった。僕は目をつむらなかった。

 口の中に残った小石と土を、思いっきり吐きつけてやった。

 僕のレベルで一直線に放たれた小石と土は弾丸以上の威力を持って女の目に命中する。衝撃と、視界を奪われたことでバランスを崩した女のなぎなたは狙いが反れ、地面にめり込むと同時に澄んだ音を立てる。

 女がなぎなたを拾い上げると、土中の石を割ったのかわずかに刃が欠けていた。あれだけのレベルの武器でも、使い手が叩きつければダメージがあるらしい。

「てめえ…… ゆるさないじゃん」


 完全に切れた女はもうなぎなたを使うことすらせずに僕を殴り、蹴り、踏んづけた。途中で睾丸を踏みつぶされ、片眼を抉られた。そのたびにエデルトルートの悲鳴が上がり、申し訳なく思う。

 急所を潰した後はうつ伏せにされ、隠し持っていた乗馬用の鞭みたいなもので背中を打ちすえられた。あっという間に服は破れ、肉が裂けるのがわかる。

 それからは何度も、何十度もただひたすらに撃ちすえられた。中東の刑罰では数発で死ぬ人が珍しくないらしいけど、今の僕のレベルでは百発やられても死ななかった。

 死にたいと思っても死ぬことができなかったコカトリスに喰われていた状況を思い出す。途中からは痛みを感じなくなってきた。

 一時間か、二時間か。永遠にも思える時間が経った頃に鞭が止まった。

「もう、飽きたじゃん、と、どめ刺すじゃん」

 息を切らせながら女は僕を再び仰向けにする。

 僕の顔を見た瞬間、女は目を見張った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る