村長さん♡

 村長は一人、森の中を走っていた。

「なぜだ、なぜあの者が生きていた。それに一体何が起こった」

 よぼよぼの体を必死に動かし、肺炎じゃないかってくらい苦しそうに呼吸をしながら森の中の小道を必死に走っている。


「どこに行くの、村長さん?」

 僕は一足先に小道を先回りしておいて、村長に声をかけた。ゲームで言うAGIが上がったんだろう、走る速度も段違いだった。


 僕の姿を認めた村長は腰を抜かしてその場にへたり込んでしまう。

「ゆ、許してくれ」


 地面に転がったまま震えている。僕はその様子をにっこり笑ったまま見ていた。

 村長が色々と謝罪の言葉を並べたり、お金はいくらでも出すと言ったり、色々とくだらない言葉を並べ立てているが、僕は可能な限り様子を変えないでその言葉を聞いている。

 僕が何もしない、何もしゃべらないことに違和感を感じたのか、村長が僕を震えるまま見ている。村長と目があった。


 混乱と一縷の期待が混じった、不快な目だ。


「ドルヒ、もういいよね?」

 さすがに我慢の限界だ。

『許可する』


 ドルヒの許可が出たので、僕は村長の胸の中心、心臓を一突きにした。

 心臓は世間のイメージと違って意外と真ん中に位置しているらしい。ただし胸の中心には頑丈な骨があるので、そこから少し下か左右にずらすと良く殺せるそうだ。

村長を殺した後、僕は緊張しまくった顔面筋をほぐす。


「殺気を表に出さないのって、大変だね」

『ああ。並大抵のスキルではない。だが貴様の目的のためには必要だ。自分より強い相手で、不意打ちも通じない場合は友好を装うのも大事だぞ』


 剱田や岩崎を相手にするときに必要か。

 それなら、どんな嫌なことだって耐えられる気がする。


「ありがとう、努力するよ、ドルヒ」

『そうだ相棒、努力は大事だぞ』

 村長を殺し、全身から溢れんばかりの力がみなぎっているのを感じていた。

「ドルヒ、また強くなれたよ。熊相手の今までのレベリングが悪い夢だったかって思うくらいに効率が良い。これなら剱田や清美たちを殺せるかな」

「まだだ、まだ足りぬ、相棒。貴様は弱く奴らは強い」

 自覚はしてるけど、そうはっきり言われるとショックだな。

 これだけレベルアップしても追い付いていないのか…… 僕はどれだけ弱かったんだ?


『案ずるな、相棒。確かに強いが追いつけぬことはない。相棒も我が輩と言う悪魔の力を手に入れたのだ。だから狩って狩って狩りまくれ。吾輩の力をとことん利用せよ。全て吾輩は受け入れる。だから相棒はそのままで良い』


 ドルヒにそう言ってもらえると、少し勇気が出てくる。

『これだけの人間を殺したのだ。心が痛むか?』


「昨日まで仲良く暮らしてた人間を、平然と魔物の餌にした挙句リンチするような奴らだよ? むしろ今まで生きてきた中で一番晴々してるよ」


 ドルヒに顔はないのに、にやりと笑ったような気がした。

『そうか。お前には才能があるな』 

 才能がある、か。

 そんなことは言われたことがなかったな。勉強も運動も人並み以下だったから、親にも教師にも同級生に先輩にも期待されたことがない。


『だがとりあえず体を洗え。血と尿の匂いで悪目立ちしすぎているぞ、今のお前は』

言われて、服は返り血で赤黒く染まり、靴は尿で汚れていることに気がついたので無人になった村から服を引っ張りだして交換する。汚れた服と靴は村にくすぶっていた残り火にくべて焼いた。


 それから食料と、替えの服、わずかな銅貨と銀貨ももらっていくことにした。

 また、レベルアップしたせいかドルヒが成長していた。少し刃渡りが長くなり、鞘もボロボロの革からなめした革になって見栄えが良くなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る