第51話II部 5ーユカside


ユカは幸せを満喫していた。聡とは離れて暮らしているけど代わりになっちゃんと

暮らせるなんて、これほど幸せなことはない。小学生や中学生の頃はよく泊まりっこをしていた。私の両親は仕事で忙しくほとんど家にいなかった。夜に一人でいると寂しいのでなっちゃんが泊まりにきてくれるのが楽しくて仕方なかった。蓮は男だから流石に仲間に入れることはできない。でも蓮の両親もいないことが多いらしく仲間に入りたがっていたのを私は知っている。

でも高校生になった頃から泊まることがなくなっていった。これは私が悪い。お金を持っている友達と遊ぶことに夢中になっていた。今思えば馬鹿なことだけど、なっちゃんとだと買う服や行く場所が明らかに違って、それを楽しんでいた。夏休みも海外で過ごすことが当たり前だった。本当に大事なものが見えていなかった。

蓮も私と同じように過ごしていたのに三年になって変わった。なっちゃんが変えたのだ。

受験勉強なんてしなくても大学合格間違いなしの成績なんに、夏休みに受験勉強をしようと言われた時は驚いたものだ。すぐになっちゃんが目当てだってわかったけどね。最初は邪魔しようかと思ったけど、他の友達から海外旅行に誘われてそっちに行ってしまった。なっちゃんが蓮に食われたことを夏休み明けに知った時はやっぱり邪魔しに行けばよかったと後悔した。

蓮の気持ちは知ってたけど、なっちゃんが蓮と付き合うなんて思わなかった。蓮に好意を持っているようだったけど、なっちゃんの性格からして蓮を選ぶことはないと思っていた。

付き合うだけでも大変な蓮と結婚をするなっちゃん。応援するつもりだったけど気持ちは複雑だ。蓮は嫉妬深い。結婚したらなっちゃんを離さないだろう。こうして泊まりっこする事にも反対するに違いない。それに蓮は粘着質だ。私なら蓮を選ばない。十年もなっちゃんを思い続け、なっちゃんを監視していた事をなっちゃんは知っているのだろうか? ストーカーと蓮の違いは何かと聞かれて答えが出せるだろうか。違いなんてないもの。でも流石にこれはなっちゃには言えない。今になって結婚が破断なれば蓮が犯罪者になりそうで怖いから。なっちゃんが蓮を嫌っているのなら協力するけど、好き合っているのならなんとかなるだろう。少しばかり蓮の愛情が重くてもなっちゃんなら大丈夫。

だってなっちゃは私の愛情も黙って受け入れてくれる器を持っているのだから。


「なっちゃんは結婚したらどこに住むの?」


「どこって蓮のマンションだと思うよ」


「え? 聞いてないの?」


結婚後の住まいを聞いていないなんて、なっちゃんは悠長すぎる。


「なっちゃんは本当に結婚する気あるの? 結婚って一大事だよ。住まいは親と同居になるのかとか聞かなかったの?」


親と同居かどうかは一番大事な事だ。私はプロポーズされた次の日には確認した。それで結婚を辞めるとかじゃなく、親との同居には覚悟のようなものがいるから早めに知っておいた方が良い。


「わたしはどちらでも良いけど、そう言えば聞いてないわね。あー、でも蓮の実家はお手伝いとかいるから嫌かも。家に他人がいると気を使うよね」


なっちゃんの家にはお手伝いがいなかった。私の家にはいたからなっちゃんの気持ちはわからない。聡さんと住んでいるアメリカにもお手伝いはいる。アメリカでは護衛する人も頼んでいる。日本に帰ると決めた時に一番大変だったのは護衛をまくことだった。そう言えばあの護衛の人怒られたかもしれない。かわいそうなことをしてしまった。


「どこに住むにしてもお手伝いは頼むでしょ。今はどうしてるの?」


「マンションは狭いから掃除は私がしてる。私が一緒に住む前は頼んでいたみたい」


「マンションに住むのなら今と同じでも良いけど、家に住むなら手伝いはいるわね」


「そうだよね」


しょんぼりと項垂れたなっちゃんを見ているとお手伝いなんていらないよって言ってあげたいけど、後で苦労するのはなっちゃんだからお手伝いがいた方が良い。蓮は海外出張にもなっちゃんを連れて行きそうだから、掃除や洗濯は人に任せないとなっちゃんが大変だ。

社交界にも出席するようになるから、初めは一緒に行きたかったのに聡がアメリカに転勤になるからそれもできない。嫌味なおばさん連中になっちゃんがいじめられないか心配だ。なっちゃんが慣れるまで日本で暮らせないかな。蓮は「俺が守る」とかカッコつけてるけど、男の領分と女の領分は違うから守りきれるとは思えない。

隣に座ってるなっちゃんを見て新たに決意する。やっぱり私がなっちゃんを守る。聡が来たら説得しないと…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る