第50話II部 4ー蓮side


 ユカと菜摘が一緒に暮らすことになって、俺は一人で寝ることになった。別に一人で眠れないわけじゃないけど納得がいかない。何も菜摘まで隣で暮らさなくてもいいじゃないか。ユカも子供じゃないんだから一人で暮らしていけるはずだ。


「お前、どういうつもりだ? 俺の結婚を邪魔する気か?」


 高木は本当に忙しいらしく、中々捕まらなかった。どうにか話ができるようになったのは菜摘とユカが隣で暮らし出して一週間が過ぎていた。


『蓮は相変わらず大袈裟だなあ。そんなことで結婚が壊れるわけないだろう』


 国際電話だがそんなに遠くには感じない。聡の声が近いので外国にいるようには感じられない。


「言いたくないが、そんなことで壊れそうになってるのはお前達だろ。俺のカードを使ったくらいで怒るなよ」


『そう言うことじゃない。鞄をいくら買ったところで破産するわけじゃないけど、限度がある。それで注意したら当てつけのように蓮のカード使ったんだ。怒りたくもなるだろう』


「言っとくがユカが俺のカードを使ったのは初めてだぞ。何かあった時のために渡してたんだ。外国で暮らしてたら困る時もあるだろ」


『余計なお世話だ。ユカは一人で暮らしてるわけじゃない。俺がついてるんだから蓮は手を出すな。蓮だって俺が同じことをしたら嫌だろ』


 確かに聡が菜摘に同じ事をしたら嫌だ。でも聡と菜摘は幼なじみではない。俺とユカの関係とは違う。どうしても手助けしたい俺の気持ちはわからないだろう。


「わかったよ。もう隠れて手助けはしない。早くユカのところに来てくれ。ユカもお前が来るのを待ってるんだ」


『それなんだが、今は忙しくて日本に帰ってる暇はないんだ。もうしばらくユカを頼む』


 仕事と言われれば仕方ないなと思う。


「だったらユカに電話くらいしたらどうだ?」


『声を聞いたら会いたくなるから、お前の方からユカに言ってくれ。結婚式には必ず行くからそこで待って欲しいって』


 聡との電話を切ると一人でいる部屋が寂しく感じる。菜摘といる時もそれほど会話があったわけではない。それでも菜摘がいるだけでまるで違うのだ。

 菜摘はまだユカと俺のことを疑っているのだろうか? 気になったので聞いてみると「分かってる」と答えてくれたが、菜摘は一人で抱えてしまうから不安だ。

 ユカを思う気持ちと菜摘を思う気持ちは全く違う。ユカのことは妹のように思っているだけだ。きっと妹がいたらこんなものだと思う。でも血が繋がっていないからか菜摘にも聡にも理解してもらえない。

 そんなことをつらつらと考えているとユカから電話がきた。


『蓮、食事ができたわよ。なっちゃんが呼んでる』


「ちょうど良かった。今聡と話してたんだ。仕事が忙しくてすぐには来れないって。でも俺の結婚式には必ず来るから待っててくれって」


『ふーん。アメリカに行ってから忙しい忙しいってそればっかり』


「仕事だから仕方ないさ。それよりなんで俺のカード使ったんだ? 自分のカードも使えただろう。わざと怒らせたのか?」


『あの鞄はなっちゃんのだったの。蓮もなっちゃんに似合うのがあったら買って送ってくれっていったでしょ。それなのに聡が勘違いして怒ったのよ』


 ユカに言われて、頼んだことを思い出した。菜摘は買い物に興味がないのか服を買うのも一苦労する。俺が少しずつ増やしているが、どんなものが良いかはイマイチよくわからない。それでユカにも菜摘に似合うものがあったら買ってくれと頼んでいたのだ。


「そうだったのか。それなら聡にそう言えば良かっただろ」


『言う前に怒るから言いたくなくなったの』


「ユカはそれで前も別れることになったのに全然懲りないな。短期は損気って言うだろ」


『わかってるけど頭ごなしだったから...つい』


 ユカの気持ちもわからないではないが、結婚したからにはもう少し聡の気持ちにも配慮するようにならないと駄目だ。


「聡が帰ってきたら俺からも言ってやるよ。だからユカの方も折れろよ」


『.....わかった』


 電話を切ると菜摘の手料理を食べるために隣に行く。これもあと数週間で終わる。その後はいつでも一緒だ。

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