第48話II部 2
お風呂に入ってる時に、蓮はユカを連れて帰ってきた。外から何か言ってるけど無視した。ユカがいなければ、鍵も意味がなく入ってくる蓮だけどさすがにユカがいるからか入ってはこなかった。
それにしてもユカは何をしに日本に帰って来たのだろう。新婚なのに旦那をおいて帰ってくるなんてきっと大事な用に違いない。
蓮はきっとユカに振り回されるのだろうなと思う。
「はぁーーーぁ。まあ、仕方ないかぁ」
結婚を承諾した時からわかっていたことだ。蓮の隣にいるユカと対等に付き合っていかなければ結婚なんてできない。ユカと蓮は恋愛関係にはならないと言っていた。確かにこれだけ長い間一緒にいて付き合っていないのだから、今更付き合うなんてないだろう。
それでもユカと蓮の間にはわたしが入れない絆みたいなものがある。幼なじみだから? わたしも幼なじみの一人なのに、入っていけないのだから違う。
「会いたかったわー!」
風呂から上がるとビールを持ったユカが待っていた。蓮はその隣できまりが悪そうな顔で座っている。
「高木さんから電話があったわよ」
「え?」
「ケンカでもしたの?」
「ケンカなんてしてないわよ。なっちゃんの結婚式に帰るって言ってたのにおかしいわねぇ」
私の結婚式は一ヶ月も先だ。おかしいのはユカの方だ。
「一ヶ月も先の結婚式のために帰って来たなんて誰も信じないわよ。本当は何があったの?」
「うぅ。欲しいカバンを買ってたら買いすぎだって言うの。あんまりうるさいから蓮のカードで買ったら余計に怒っちゃって」
ユカはカバンを買うのが好きだ。病気かなって思うくらい買い漁る。高木さんはそのことを知らなかったのだろうか。
「それって蓮のカードで買うから怒ったんでしょう? そんなに欲しいカバンだったの?」
「うーん、それが買ったらそれほどでもないのよね。買うまではあんなに欲しかったのに……」
やっぱり病気かもしれない。ストレスでも溜まっているのかな。
「でも怒られたくらいで日本に帰って来たわけじゃないでしょ?」
「だって、蓮のカードを問答無用で取り上げるから頭にきたの。結婚する前は蓮のことは気にしないってかんじだったのに騙されたわ。男なんて結婚する前と後では変わるんだからなっちゃんも考え直した方がいいかもよ」
「おいおい、なんてことを言うんだ! だから会わせたくなかったんだ。やっと結婚までこぎつけたのに邪魔をするな」
「邪魔じゃなくて忠告よ~」
ユカは少しというかだいぶ酔っているみたいだ。一見まともに見えるから気付かなかったよ。
「もしかして酔ってるの?」
「酔ってない、酔ってないわよ」
「酔ってるよ。昨日会ってからずーっと飲んでるからね」
「蓮ってば、なっちゃんも連れて来てって言ったのに連れて来ないのよ。私が結婚式の邪魔するっていって、アメリカに帰れってそればっかり言うのよ。私は手伝いに来たのに邪魔者扱いして酷い! なっちゃんは私の味方にだよね~」
ユカはわたしに抱きついてくる。うっ、酒臭い。
結婚式の手伝いなんて当日だけで十分だからユカの手伝いはいらない。ユカもそれはわかっていると思う。それなのにこんな我儘を言うなんて、高木さんとの喧嘩は笑い事ではないのかもしれない。
でも高木さんが何を怒っているのかよくわからない。ユカが蓮のものを使うのはこれが初めてではない。結婚するまで蓮所有のマンションに住んでたし、車も蓮の名義だった。カードまで持たせているのは知らなかったけど、蓮のお金でカバンを買うことなんて日常茶飯事だったのに、今更こんなことで怒って喧嘩になるなんてどうしたんだろう。
「私は蓮となっちゃんの結婚式が終わるまで帰らないからね~。邪魔にされたって、離れないんだから」
ユカは酒臭い身体でぎゅーしてくるのでやめて欲しい。せっかくお風呂に入ったのに、匂いが移りそうだ。
「蓮、高木さんにメールした?」
「ああ、さっきした。ユカがなかなかメールさせてくれなくて、菜摘からの電話に出ているすきにメールしたよ」
高木さんは日本に帰国したことはわかっていたけど、どこにいるかわからなくて探していたらしい。わたしから連絡するよりは一緒にいた蓮がメールした方が良いと思って連絡しなかったのでホッとした。きっと安心しただろう。
ユカは時差もあって疲れていたのかわたしに抱きついたまま眠ってしまった。まだまだ聞きたいことがあったけど、眠ってしまったのなら仕方がない。蓮にユカから電話があった時にはもう酔っていたらしく、詳しい事情は聞けていないと言う。
蓮は酔って眠ってしまったユカを軽々と抱えると客間に運んで行った。その姿をモヤモヤした気分で眺める事しかできない自分が嫌だった。わたしが運べないのだから仕方がない事だと頭ではわかっているのに嫉妬している。最低な女になった気がする。これが他の女の人だったら、全く気にならないのにどうしてユカだとモヤモヤするんだろう。
ユカの残したビールを飲みながら蓮が帰ってくるのを待っていた。
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