第47話Ⅱ部 1
朝早い時間にかかってくる電話はあまりいいことがない。
電話の音で目が覚めた私はしばらく悩んでいた。電話はいつもろくなことを運んでこない。でも蓮が事故にあったという電話の可能性もある。それはそれで怖いけど、電話には出た方が良い。
スマホの画面を見ると高木の文字が見えたので条件反射で出てしまった。もう上司ではないのだから直ぐに出る必要はなかったのに……。
「はい、西條です」
『早く出てくれ。そっちにユカ行ってないか?』
「はぁ? っていうか久しぶりなのに挨拶もなしでそれですか?」
やっぱり出なければよかった。高木夫妻に関わるとろくな事にならない。アメリカに転勤して五ヶ月、とっても平和だったのに不吉な予感がする。
『ああ、すまないな。で? ユカ知らないか?』
高木さんは全く悪いとは思っていない声で謝るとユカのことを聞いてくる。高木さんにしては焦っている声だ。いつも飄々としているのにユカに関してはスマートには行かないらしい。
「ここは東京ですよ。知ってるわけないでしょ。ユカがどうかしたんですか?」
『それが、昨日には日本に到着する飛行機の名簿にユカの名前があったから、菜摘さんの所に行ってないかと思ったんだが』
「え? 昨日ですか?」
昨日と聞いて嫌な予感がした。昨日はというか毎日のように蓮とは会っていたのに昨夜は電話で会えないと行って来た。これは偶然とは思えない。
けっこんしきは一ヶ月後だけど、最近はいつも蓮の部屋で過ごしていた。今、寝ているベッドも蓮のベッドだ。十中八九、ユカと蓮は一緒にいる。わたしの長年の勘が教えてくれる。昨日の蓮の後ろめたそうな電話はこの事だったのだと……。
でも彼らはどこにいるのだろうか? ホテル? いや、蓮の持ってる不動産は多岐にわたる。その中のどれかだとするとわたしにはわからない。
『実家にも帰っていないようだし、菜摘さんの所だと思った思ったんだが本当にいないのか?』
「ここよりも蓮には電話したんですか? 一番怪しいのは蓮ですよ」
『それが電話したけど全然繋がらないんだ』
「わかりました。わたしが電話してみます」
時間が惜しいのでサッサとと電話をきる。はじめに蓮にかける。高木さんの言うように本当に出ない。この時間だから寝ているのかもしれない。次はユカだ。
『わー。なっちゃん、わたしがどこにいるかわかる?』
ユカはすぐに出た。
「日本でしょ。それより蓮はそこにいるの?」
『えー! なんで日本にいるってわかったの? あー! 蓮が話したのね。あれだけ内緒だって言ったのに。ホントに蓮はなっちゃんには隠し事ができないんだから』
イエイエ、ソンナコトハアリマセンヨ。
「それで蓮はそこにいるの? 電話に出してくれる?」
わたしは穏便に済まそうとユカに尋ねると、ユカが急に困ったような声を出す。テレビ電話にすればよかった。焦ってるユカの姿もあまり見れないのに惜しいことをした。
『あー、ちょっと待って、後でかけ直させるから』
「何言ってるの? まさか寝てるの?」
『そうじゃないけど、ちょっと、あー、掛け直すわ』
プツっと切れた。どう言う事? もう一度掛け直すべきか悩んだけど、なんともいえない苦い思いで掛け直すのはやめた。これでは嫉妬に狂った女のようではないか。
平和だったのは五ヶ月だけだった。ユカが日本に戻って来たらまた同じになるとわかっていたけどあまりにも早い。
わたしと蓮の結婚式は一ヶ月後。まだ式も挙げていないのに危機的状況になるのだろうか。やっぱり結婚は間違いだったのかもしれない。今ならまだ間に合うと誰かに言われているような気がした。
電話が鳴り出した。
蓮からだとわかるけど出る気にならない。朝早い電話には出ない方がいい。無視してシャワーでも浴びる事にした。嫌な汗は流してしまえ。
きっと蓮は慌ててここにやってくる。ユカは一緒かどうかはわからない。わたしは蓮と何を話せばいい? ゆっくり考えたい。
シャワーではなく風呂に浸かる事にした。これで少しは時間が稼げるはず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます