第39話
わたしは湿布のおかげで痛むことのなくなった腕をしきりに触っていた。何かしていないと落ち着かないからだ。
だって蓮からプ、プロポーズされているのだから。あり得ないことだ。
蓮は何を考えているのだろう。プロポーズって付き合っている男女が最終的に結婚という人生において大きな出来事を承認してもらうための儀式のようなものだ。それなのにまだ付き合ってもいないのにいきなりプロポーズって変だと思う。
蓮には時間が欲しいって言ったのに。どうしてもっと先の段階に進んでいるの?
やっぱり婚活パーティーに行ったのが引き金になったのだろうか。
だいたい付き合ってくれって言われてもないと思おうんだけどわたしの勘違いかしら。考えたけどやっぱり蓮から付き合ってくれなんて言われてない。どう考えてもプロポーズとかおかしいよ。
「あのさ、わたしたちってまだ付き合ってもいないと思うんだよね。それなのにいきなりプロポーズって変だと思う」
わたしはすごくまともなことを言ったけど蓮には理解されなかった。
「確かに返事らしい返事はされてないけど付き合ってくれって言ったら頷いただろ?」
頷いた? わたしが? 全然覚えてないけど、なんだか嫌な予感がする。
「いつのことを言ってるの?」
記憶喪失になった覚えはない。蓮の勘違いだ。
「この間の夜だよ。ここで泣きながら眠った日があっただろ」
それは覚えてる。蓮にすがって泣いてそのまま眠ってたのは覚えている。でも蓮から付き合ってほしいなんて言われた覚えはない。絶対に嘘だ。
「嘘言わないでよね、いくらなんでもそんな大事なこと忘れるはずないでしょ」
わたしがきっぱり言うとさすがに蓮もきまりの悪そうな顔になった。やっぱり嘘だったんだ。そんないつバレるかわからないような嘘言ってどうするつもりよ。
「頷いてくれたっていうのが嘘なだけで、付き合ってほしいって言ったのは本当だ」
今度は本当のことを言っているらしい。蓮の表情はとても真面目な顔だ。
わたしが泣いている間、蓮が何か言ってたのは覚えてるけど、内容まではわからない。あの時そんなことを言ってたのだろうか? そんな大事なことをわたしが聞こえてないとか思わなかたの?
「悪いけど、泣いてた時に蓮が何か言ってたのは知ってるけど、聞こえなかったの」
わたしは正直に話した。あの状況で告白するとかあり得ない。
「え? 何も聞いてなかったのか?」
仕方ないよ。自分の泣き声の方がすごかったし頭の中はぐるぐるしてたんだから。
蓮は落胆を隠せないようだったが、立ち直るのも早かった。
「とにかくもうプロポーズでいいから、そっちの返事をくれ、じゃなくてください」
なんか残念なプロポーズがどんどん酷いものになってしまった。こんなプロポーズでOKする人いるのかな。いやどんなに酷いプロポーズでも好きな人からだったら嬉しいものなのかも。
わたしも少しは嬉しい。だって人生で初めてのプロポーズなのだ。嬉しくないわけがない。
でも受けるわけにはいかないとも思う。蓮はわたしの身体のことを知らないのだろうか。知ってたらプロポーズなんてしないはずだ。
「あのさ、蓮は知ってると思ってたんだけどもしかして知らないの?」
「何を?」
蓮は不思議そうな顔でわたしを見た。これなにも知らないの目だ。どうして誰も蓮に教えなかったのだろう。医者としての守秘義務ってやつだろうか。でもできるなら教えておいて欲しかった。わたしの方からこんな話を蓮に話さないといけないなんて、どんな罰ゲームなんだろう。
「蓮は事故の時わたしの身体がどうなったのか本当に知らないの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます