第37話
「婚活パーティーに参加するなんて何を考えてるんだ! しかもあんな変な男に絡まれて、俺が行かなかったらどうなってたと思うんだ」
「大丈夫よ。ス、スタッフもいるし変なパーティーじゃないって彩乃が言ってたわ」
蓮はわたしが言い返したのが気に入らなかったようでブスッと黙り込んだ。
蓮は空港から直接来たと言っていた。疲れているのかいつもなら自分で運転するのに、秘書だと紹介された男が運転していた。
どうして婚活パーティーの場に現れたのかとかいろいろ聞きたいことはあったけど、疲れているのに助けに来てくれた蓮に文句も言えず窓から外を眺めていた。
蓮が来てくれて助かったことは事実だ。あの男はヤバかった。お酒を飲むまでは優しい目をしてたのに....お酒って恐ろしい。
「おい、その手首はどうしたんだ?」
「え?」
蓮に言われて自分の手首を見ると赤黒くなっている。あの男に強く握られたからだろう。
「ああ、すぐに跡が残るのよ。そんなに痛かったわけじゃないわ」
「やっぱり暴行罪で訴えればよかった」
「蓮は大袈裟よ」
「あの様子だと今回が初めてとは思えない。また被害者が出る前に病院で治療を受けた方が本人の為でもあるぞ」
蓮の言うことは正しいと思う。でも一度でも警察のお世話になると職を失う可能性が高い。わたしが訴えたせいで彼の人生が終わるかもしれないと思うと躊躇ってしまった。それに早く帰りたかった。
蓮はそんなわたしを見て深くため息をついた。わたしの考えなど蓮にはお見通しだ。
「榊、湿布は部屋にあったかな」
蓮は秘書に尋ねている。自分の部屋にあるものを他人の方が知っているってどうなんだろう。
「はい。一通りのものは救急箱に入れてあります」
秘書というのは大変なんだなと思った。でもユカがここまでしているとは思えないので秘書にもいろいろあるのだろう。
結局蓮の部屋で治療を受ける事になった。と言っても蓮はどこに救急箱があるかも知らないから秘書である榊さんが出してくれた。
蓮は湿布は自分が貼ると言って煩かったが、
「私の方が上手です」
と言って蓮に湿布を渡さなかった。秘書ってなんでも蓮の言うことを聞くのかと思ってたのでびっくりした。蓮も榊さんにダメだと言われるとそれ以上はワガママを言わない。なんか不思議な関係だ。
榊さんはわたしにも湿布を渡してはくれなかった。湿布くらい自分で貼れると思っていたのに。
「これで大丈夫でしょう」
湿布の上からネットで湿布を外れないように固定してくれた。
「ありがとうございます」
「では私はこれで失礼します」
榊さんは救急箱を片付けると帰ると言うのでわたしも一緒に立ち上がった。
「菜摘は隣なんだから、急がなくていいだろう。話があるんだ」
「で、でも明日も仕事だし」
説教されるってわかってるのに残りたくないがわたしの言い訳は蓮の笑顔でかわされた。
「俺も仕事だからそんなに遅くならないよ。時差で疲れてるし」
「では私は失礼します」
榊さんは置いてかないでという私の視線をあっさりと無視してさっさと帰ってしまった。
蓮は腕を組んだままソファ座ったままで一向に話を切り出してこない。話がないのなら帰らせてほしい。
「あのー」
「何?」
「話がないのなら帰ってもいいかなあって.....」
ボソボソと言ってみたけど、段々と険しくなっていく蓮の視線に声が小さくなった。これは謝るべきか。でもなんか謝るのも変だよね。べ、別に蓮とは恋人ってわけでもないんだし、婚活パーティーに参加したからって怒られるのは絶対に変だ。
「この状況でまだ帰るつもりなの? 俺がどうして怒ってるのかわかってないのかな」
ヒィィ、さらに怒らせてしまった。でもどこに怒りのスイッチがあったのかわからない。
でもここは謝っておくに限る。
「ごめんなさい」
よくわからないけど頭を下げて謝った。
「首を傾げながら謝られても意味ないんだけど。菜摘は全然わかってないでしょう。俺は菜摘がわざわざ危険な目にあいに婚活パーティーに行ったことも怒ってるけど、どうして一人で行ったのかって事にも腹を立ててるんだよ」
「一人でって普通一人で行くものでしょう?」
「友達を誘っていれば連れ去られそうにはならなかったよ。あの男はその辺もわかっていたみたいだ」
栗原という男はパーティーが始まる前から一人で行動している女を探していたらしい。目をつけられてたって全然気付かなかった。
わたしには婚活パーティーはハードルが高かった。せめて合コンとかにすればよかった。
「婚活パーティーって、わたしには無理だわ。合コンとかにしとけば良かったね」
蓮を笑わせようとして言ったセリフはさらに蓮を怒らせた。あれ? 何を間違えたのかな?
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