ダンジョンは仲間たちと共に!!
イナロ
プロローグ
学生でも社会人でも憂鬱な月曜日。
しかも6月に入ったばかりだというのに太陽が少し自己主張し過ぎて今年は梅雨があるのだろうか、と疑問に思う程の暑さが加わったのだから全国の学生や社会人は太陽を心の内で罵っただろう。
こんな日は休みたいと駆られるが、やはりいつもの日常が繰り返されるのだ。
茨城県にある高等学校もいつも通り授業が行われていた。
昨年、学校が新しく導入した冷暖房器具によって教室内は勉強をするに最適な温度に保たれている。
そこで教鞭をしている女教師は凛とした面持ちで全体を黒のスーツで仕上げているが、靴は学校指定のモノで足元だけダサくなっていた。
しかし彼女は常にこの服装なのだろう、教室の生徒たちは違和感を抱く者はおらず、授業に集中している。
教科書の一部を板書し終わり、生徒の方を振り向き教科書から視線を外すと一人の生徒を指名する。
「では続きを大月くん、読んでもらえますか?」
「はい」
一番後ろの窓側にいる大月と指名された少年は教科書を持ち、指定された部分を読む。
「世界各地で一斉に起こった第1次侵攻を食い止める際に多大な損害を出してしまった人類は一時的にではあるが一致団結を余儀なくされた。そして第2次侵攻を食い止めようとする動きが世界各地で始まり、各国は自分の国で知りえた情報を素早く世界に発信し情報の共有を最優先に打開策を実施した。これによって損害は1次侵略の約1/3に減らす事が出来た。
しかし侵攻は留まる事はなく次々と押し寄せ、最初の侵攻から約2年に及ぶ期間は常に危機に晒され、いつどこで戦いが起こるか分からない状況が続いた。
だが約2年を経過した辺りで急激に侵攻が激減し次々と抑え込むことに成功し、現在は世界各国が観測、監視し侵攻は最小限に抑えられている。
2年の及ぶ長期的な活動によって約300カ所に及ぶ入口が確認され、50年経った現在では公式に記録されている入口は約400カ所あり、未確認を含めると500~600カ所はあるのではないかと発表され、各国は捜索を徹底している。
そして、この入口は通称 《ダンジョン》と呼ばれるようになった」
「はい。ありがとう」
女教師は教科書から目線を外し、教室を見渡す。
「《ダンジョン》は今から50年以上前に突如出現しました。ここで注意してほしいのですが、最初に発見した《ダンジョン》がいつからそこにあったのかは不明である点です」
教室の大半の生徒の表情が険しくなった。
女教師は言い方を改めるために、一旦咳をしてから口を開く。
「《ダンジョン》が最初に確認されたのは、侵攻が終わった後のことです。《ダンジョン》がどのように生成されるのかが今現在なお不明なため、侵攻の被害があった日を出現した日としているのです。ここはテストに出しますよ」
その言葉によってノートに書き込む生徒達。
「後、世界的に有名な《ダンジョン》もテストに出します」
再び大半の生徒の表情が険しくなる。
「世界で一番最初に発見された《ダンジョン》の【
生徒たちが一生懸命ノートに書いているのを確認し、大半が書き終えたタイミングで続きを話す。
「それと、日本にある4つの《ダンジョン》の名前とどこにあるか覚えていますか?」
静かになる教室。
彼女は内心ため息をつくが表情には出さない。
「一つは分かりますよね? それ以外だと北海道の【
女教師は時計を確認した。
「ん~。少し、時間が余ったわね。何か質問あるかしら?」
「はい」
静かになる教室だったが、一人の生徒が手を挙げた。
先ほど教科書を読まされた大月という少年の隣席の少年だ。
「赤星くん。どこか分からなかった?」
「いえ、質問なんですが、良いですか?」
「良いわよ、何かしら」
「……一瀬先生が昨日【イバダン】で男性と親密に話た後に入っていったのを見たと情報があったのですが、彼氏ですか?」
「はい?」
教室がザワザワしだした。
男は少し残念そうな、否定してくれという表情をしているが、逆に女子はニヤニヤしていた。
「この学校の先生かな?」
「もしかして生徒!? 禁断~!」
「誰だろうね~!」
ザワザワがガヤガヤとしだした辺りで女教師、一瀬が再起動を始めた。
「あ、えっと、えっと……」
先ほどの凛とした先生の面持ちではなく、少しキョドキョドしてる事で可愛い雰囲気が漏れ出す。
「彼氏ですか!」
質問をした赤星は握り拳を作り、目を見開いて力強く再度質問をした。
「ち、違います!」
教室から安堵と残念の気配が漂う。
主に男性陣からは安堵の息を漏らし。
そして女性陣は残念な息を漏らす。
「え~。誰なんですか?」
一番前の女子が追い詰めていく。
「コホン。私が【ダンジョンライセンス】を持っているのは知っていますね? ライセンスがなければこのダンジョン学科の教鞭を執ることが出来ませんからね」
【ダンジョンライセンス】
ダンジョンに入る際に必要な身分証である。
これを持っていないとダンジョンに入ることはできない。
「私はその男性にいろいろと教わっているんです。《ダンジョン》について教えるのですから自分で見て感じたことを伝えなければ危険性や素晴らしさを教える事が出来ないからです。もちろん、その人と男女の関係ではありません」
一瀬という教師がどういう人物なのかが少しは分かる答えであった。
そしてちょうどチャイムが鳴る。
「号令を」
「起~立。礼」
「「「ありがとうございました~」」」
「では、また明日ね」
そう言って教室を去る一瀬に男子は青春真っ盛りな目を向け、女子はヒソヒソと先ほどの話題を語るのであった。
♢
こうして日常は繰り返される。
つい50年前に起こった侵攻という災害は時間という波に飲まれ、まだ若い教師である一瀬を含む大半の人々の中では生まれる前から存在する当たり前のモノとなっていた。
災害は今でこそ【デスマーチ】や【モンスターパレード】と呼ばれるようになってはいるが、その当時を知る者は年々少なくなっていく。
そして現代において《ダンジョン》は資源であり、仕事であり、刺激的なスポーツとなっている。
人がその入口に足を踏み入れるのは刺激を求めてるためか、未知のモノに惹かれたためか、お金のためか、足を踏み入れる人それぞれの思いがひしめく穴の先は地獄か異界か。
《ダンジョン》には何か魅力に似た魔力があるのだろう。
世界に約400カ所以上ある《ダンジョン》が与えるのは恩恵か。
はたまた災害か。
《ダンジョン》は長い時間を経過してもずっと変わらずに大きな口を広げ、入る者を拒む事はないのである。
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