第60話 試み ~ Speak roughly to your little boy

■試み ~ Speak roughly to your little boy


「人として最低だな、あのババアは!」


 ミドリーの怒りが頂点に達する。そのまま抗議に行こうと立ち上がったところで「まあ、落ち着いて」と俺は止めた。


「落ち着いていられるわけないでしょ。これって酷すぎじゃない?! あの子は濡れ衣を着せられるんだよね。あのクソババアに」


 何気にババアがランクアップしてるなぁ。


「うん、そうだよ。これはただの窃盗じゃない。いじめが絡んだ、いやがらせだ」

「最低じゃん!」

「だからこそ冷静になろう。無計画に人を貶める人間は、短絡的な行動に出ることも多いの」


 考えが足りないゆえの逆ギレというやつだ。人は思うように事が運ばないとストレスを溜め込み、そのはけ口を他人への攻撃へと向ける。


「じゃあ、泣き寝入りでもするわけ? あのカムコーダーはわりと思い入れがある機材なのよ」

「少なくともカムコーダーが戻ってくるのは保証されている。だって、持って行かれた場所がわかってるんだから。あとは、どう対処するかだよ」


 こういう時は騒ぎ立てればいいというわけではない。追い込めば追い込むほど、予測不能な自体に陥る。


「対処もなにもあのムカツクババアを問い詰めればいいじゃん。証拠もあるんだし」

「だから落ち着いて。あの二人を問い詰めても騒ぎが面倒になるだけだよ」

「面倒?」

「世の中には間違いを認められない人とか、謝ることのできない人ってのがいるんだよ」


 もちろんこの間違いというのは、論理的に誰が見てもおかしいと思えることだ。立場によって見方が変わるようなものは含まない。


「でも、客商売してるんだから、謝るくらいは」

「だから、それは旅館に対するクレームの場合でしょ? こういう人たちって自分は関係ないことに関しては、ただ頭を下げればいいって考えの人が多いよ。けど、いざ自分が直接関与したことになると謝れないって場合もあるの」


 それを単純に『悪』とは呼べない。いや、もっと悪い言葉を使えば『欠陥』ということになる。


「じゃあ、どうすればいいのよ」

「うんとね。それは一番の責任者に問題を認識させること。こっちとしても警察沙汰は面倒だけど、向こうもそれは同じはずだよ。だから取引材料には使える」

「取引? カムコーダーは返してもらうのにそんな面倒なことが必要なの?」

「違うよ。事実を認識させて、盗まれた物を無事に返却させて、あの子が今後いじめられないような環境を作る為の取引だよ」


 頭の中で最適解を導き出す。いじめ問題ってのは復讐してお終いではない。被害者が幸せになれなければ意味はないのだ。


 今回は当事者でありながら、いじめに関しては完全に第三者としての立場をとれる。慎重かつ大胆に行動するべきだろう。


「あっちゃんにしてはめずらしいね。まったく知らない子なのに、そこまでやってあげるなんて」


 かなめがぼそりとそんな事をこぼした。たぶん、独り言に近かったのだろう。有里朱も『わたしもかなめちゃんと同じこと思った。今回はわたし、助けてやってなんて一言も言ってないのに』と言う。


「これは有里……わたし自身の環境を変えることができるかどうかの実験でもあるの」


 有里朱への返答という意味でもきちんと答えてやる。


「実験?」

「学校でのクラス単位でのいじめは根が深いでしょ? いじめが悪いことだとわかっていてもそれを認められない子も多いと思うの」

「うん、それはあるよね」

「そういう子たちの心をさらけ出すことによって起こりうる、リスクとハザードを分析するの」


 出口の見えない解決法を考えるばかりでは手詰まりになってしまう。今回は過激な方法を採りつつ、相手のコントロールがどの程度可能かを探るという目的があった。


「つまり、相手を追い詰めつめた場合の危険性を学びとるってわけね」


 頭の回転の速いかなめだけあって、俺の言っている意味を理解してくれていた。


「せやけど、ほんまにあんたは容赦があらへんなぁ」


 ユーリ先輩も俺の意図に気付いたのだろう。口調は柔らかめだが、言っていること自体はかなり鋭い。同じ事をミドリーが言ったらかなりキツい言葉になるだろう。


「今回は相手が大人だからね。特に手加減する必要はまったく無いし」



**



 フロントに内線電話をかけて女将おかみを呼び出すと、すぐにやってきた。


「お客さま。この度は従業員が何か粗相をしでかしたようで、本当に申し訳ありません」


 クレームの詳細は伝えていない。ただ、従業員のことで話があると伝えたのだ。この手の事に対応するのは慣れているのだろうか、部屋の中に入ると女将はすぐに土下座をして謝ってくる。


 個人的には誰かに頭を下げられてもいい気はしない。こんなことで優越感を抱けるほど性格は歪んじゃいなかった。


「頭を上げて下さい。少しお話があるので、こちらに来ていただけますか?」


 と、座卓の一角に置かれた座布団へと誘導する。


「はい。それでは失礼いたします」


 女将が座ったところで、俺は話を切り出した。


「実は部屋に置いてあったカムコーダー……ビデオカメラが盗まれまして」

「どこかに置き忘れたのではなく?」

「いえ、このテーブルの上に置いていたのですが、観光に出かけている間になくなっていました」

「まあ、物盗りでも入ったのでしょうか? もしかしたら他のお客さまにも被害が出ているかもしれません。すぐに警察を――」

「待って下さい。犯人はもうわかっています」


 テーブルの上に用意しておいたタブレットで、監視カメラの映像を見せる。すると女将の顔色がみるみる青ざめていった。そりゃそうだ。自分のとこの従業員がとんでもないことをする様子が映し出されているのだから。


「も、申し訳ありません。この者にすぐに謝罪をさせますので」


 またしても土下座。管理職も大変なんだよなぁ。


「頭を上げて下さい。わたしたちの優先事項はあのビデオカメラが無事に返ってくることです。ところで、ここに出てきた『あの子』というのは新人の仲居さんですか?」

「はい。一ヶ月ほど前に知人の子を預かりまして、不器用な子ですが悪い子じゃないんです」


 ここで新人の子が『とてつもない問題児』であったのなら、計画の変更を余儀なくされただろう。映像を見たときの直感と、女将の新人の子への印象にそれほど差異はなかったので一安心する。


「ここに住み込みで働いているのですよね? でしたら、盗まれた物はそこにある可能性が高いです。この子の部屋まで案内していただけますか?」


 さすがにバックヤードまで客を連れて行くことを躊躇したのだろうか、ほんの少し考え込むような素振りを見せ「ではご案内します」と女将は立ち上がった。


 あまり大勢で押しかけるのも良くないと思い、ミドリーと二人で行くことにする。


 従業員用の部屋は、フロントの近くの『関係者以外立ち入り禁止』の扉から入り、ずっと奥に行ったところにあった。


 個室ではあるが、四畳半ほどの狭い部屋でベッドが一つあるだけのシンプルな部屋。私物がいくつか置いてあるが、二十センチほどのカメラを仕舞えるようなタンスや引きだしはなかった。


「隠すとしたら、ここしかないな」


 と、俺はベッドの下を覗き見る。ビンゴ!


「あった」


 手を伸ばして盗まれたカムコーダーを取り出した。


「良かったぁ。かなり思い入れがある機械だから、買い換えればいいってわけじゃなかったんだよね」


 ミドリーがほっとしたような顔で吐息を漏らす。


「本当に申し訳ありません。あの者たちはすぐに解雇いたしますので、ご容赦くださいますようお願いいたします」


 女将が深々と頭を下げる。面倒であれば、これで手打ちにするのがいいだろう。だが、今回は諸事情から少し頑張らなければならない。


「たぶん解雇したら、その仲居さんたちは新人の子に対して、逆恨みすることになるでしょうね。あの映像から見ても、かなり歪んだ性格の人たちのようです。陰湿な仕返しをするんじゃないですか? それってその新人の子の為になるんですかね?」


 想定される仕返しの方法だけでも数百通り。その中にはこの旅館自体を廃業に追い込む方法もある。逆恨みされたら後々面倒なことは確かだ。


「しかし、あの者たちをここに置いてはおけません。ミナコちゃんも、知人から預かった大事な子です。これほど陰湿ないじめを受けていると把握できなかった、わたくしにも責任はございます」

「とりあえず、彼女たちと話し合いの機会を設けていただけますか? 解雇するにせよ、本人たちに何が悪かったのかを解らせる必要がありますから」



**



 部屋に戻り、仲居さん二人を呼び出してもらって座卓を囲んで座る。長方形のテーブルなので、長辺に有里朱とミドリー、その向かいに盗人の仲居二人、左の短辺に女将だ。


 テーブルの上には、高級メロンとフルーツナイフ。お詫びということで、女将にメロンを用意してもらったのである。これくらいは要求は構わないだろう。なにせ警察沙汰になりそうな事件を保留にしているのだから。


 俺とミドリー以外の他の者たちは、広縁ところに控えてもらう。もちろん、メロンはそちらにもあり、ナナリーが「おいひぃー」と幸せそうな顔でそれを頬張っていた。


「底倉、宮ノ下。お客さまにまずは謝罪いたしなさい」


 向かって右側の仲居さんが宮ノ下というらしい。彼女は緊張からなのか怒りなのか、身体がプルプルと震えていた。


「……しわけありません」


 声が小さくて聞き取れない。特に右側の仲居は、声にすら出していないように思える。まあ、謝ってもらうのが目的じゃないからいいんだけどさ。


「今回の行為は犯罪だと理解できていますよね?」

「……」

「……」


 黙り込んでしまう二人。この手のいじめはノリでやることが多いから、自分の行為が法を犯しているとその場では認識できていない場合が多い。彼女たちもその口だろう。


「あなたたちには辞めてもらいます。長い事この旅館のために働いてくれましたが、こればかりは庇いきれません。お客さまの情けで警察のお世話になることはないでしょう。その事を肝に銘じなさい」


 女将が厳しく裁定を下した。


「なんでバレたのよ……」


 宮ノ下が不服そうな顔をする。質問というより思わず零れてしまった独り言だろう。この手の素の反応は、女子高生だろうがおばさんだろうがあまり変わらない。


「セキュリティーのために、監視カメラを仕掛けておきました」


 映像はまだ見せていないが、新人の子が疑われることなく自分たちベテラン仲居二人が問い詰められているのだ。事情はそれなりに理解しているだろう。


「カメラ? 最近の子は疑り深いのね。でも、相手の承諾もなしに撮影していいんだっけ? そういうのって証拠にならないんじゃなかったっけ?」


 たしかにそういう判例もあったかもね。地裁だと、まあ、アレな人も多いからなんだけど……。というか、なんだこの人? まったく反省してないのか?


「へぇー、法律にお詳しいんですねぇ」


 と、わざとらしく話に乗ってやる。


「そうよ。肖像権の侵害とかじゃなかったっけ?」

「肖像権ですか。でしたらご心配なく、これはネット上に公開するつもりはありません。警察が証拠として押収する分には問題がないでしょう? 訴えてもいいですけど、その場合、あなたは窃盗の容疑で捕まることになりますね」

「……」


 ぐぬぬ、とでも言いそうな顔で口元を歪ませる仲居さん。


「こちらとしてもそんな大げさにしたくないんですよ。もちろん、そういうのがお好みでしたらそちらの方向に行きますが」

「いえ、なんでもないわ。……まったく、使えない新人のせいで」


 この期に及んでまだ他人が悪いと思い込みたいのだろう。そうやってこの人は自分を腐らせながら生きてきたのかもしれない。


「では、新人のミナコさんのせいであなたは盗みを働いたと?」

「ええそうよ。ムカつくのよあの子。仕事も出来ないくせに女将に贔屓されて」

「待って宮ノ下さん。ミナコちゃんは知人から預かった大事な子なのよ。贔屓して当然じゃない」


 女将が口を出してくる。きっと黙っていられなかったのだろう。けど、その露骨な女将の贔屓がいじめを生んだってことは理解していないのだろうな……。これはまた別問題なので、あとで女将に言い聞かせておこう。


「あの子のせいで、どんだけあたしたちが苦労してるか女将はわかってないでしょ? 失敗の尻ぬぐいばかりなんて、もう我慢できないわ。もういいでしょ? 解雇ならあたしは出ていくわ。せいぜい残った人間で苦労すればいい!」


 それまでの不満をぶちまけるように吐き出すと、不機嫌なまま立ち上がる宮ノ下。それを止めるように隣の底倉が腕を掴む。


「待って、このまま解雇されたら私困るのよ」

「知らないわよ!」

「一緒に謝りましょう。それで許して貰えれば……」

「こういうクレームつけてくるような子は何言っても無駄よ」


 底倉の方はちゃんと悪いことだと把握できているが、さすがに宮ノ下は人間性の歪みに年季が入っていて、なかなか自分の悪い部分を認めようとしない。犯罪行為を攻めているのに、それすらただの苦情と思っているのだろう。


「宮ノ下さん。まだ話は終わってませんよ!」


 俺はぴしゃりと強い口調で彼女を止める。ただでさえ年下だというので、舐められないようにとこちらも必死だった。


「なによ! あたしは解雇されるのよ。あんたとあの子のせいで」


 こういう責任転嫁はめずらしいことじゃない。悪役だからこの手の台詞を言うのではない。追い詰められれば人間は誰しも歪んでいく。


「そこにいる新人の子が原因というのであれば、きちんと説明したほうがいいんじゃないですか?」

「そうよ。朝は起きてこないし、仕事は遅いし、給料はあたしたちと少ししか変わらない。やってられないわよ」

「それは――」


 女将が何か口出しをしようとしたので、俺はそれを手のひらを向けて制止する。


「そのことは女将に報告しましたか?」

「言ったわよ。けど、まだ入りたてなんだから仕方ないって、給料も最低賃金が決まっているから、下げるわけにはいかないって」

「筋は通っているように思えますが」

「あたしはもうここで十年以上も働いているのよ。あたしの言うことを優先すべきでしょ?」


 『俺様がルールブックだ!』的なことかな?


「えっと……勤め先に不満があるようであれば、それこそ良い条件のところに転職すればよかったじゃないですか?」

「そんな簡単にはいかないのよ。他の旅館も似たような条件だし」

「だったら他の土地に行くっていう選択肢もありますよ」

「あたしはここで育ったのよ。今さら他には行けないわ!」


 堂々巡りになりそうだな。いつまでもこの人に付き合っているわけにはいかない。


「でしたら、なおさら犯罪行為を行うべきではありませんでしたね」

「仕方ないじゃない。バレると思わなかったし……」


 短絡的すぎて話にならないが、今回は実験的な意味合いもある。もう少し付き合ってみよう。


「あなたがあの子を疎む気持ちはわかります。人間誰しも、合う合わないはありますからね」

「そうなのよ。あの子とはウマがあわないのよ」


 この手の人はちょっと共感するだけで話に乗ってくる。ただし論理的に話すとすぐに噛み合わなくなるだろう。


「では、なぜ窃盗という行為に至ったのですか?」

「だって、仕方ないじゃない。あの子お客さまの貴重品を勝手に動かしてたし……」

「動かすことが、なぜいけないのですか? 掃除をするなら仕方の無い事でしょう?」

「前にそれをやってクレームが来たのよ。壊れたって」


 本当に壊れたかどうかはともかく、その手のクレームをつける輩はどこにでもいるだろう。実際、壊した仲居さんもいるかもしれない。


「じゃあ、注意すればいいだけじゃないですか?」

「注意しても直らないのよ、あの子は」


 他人を指導するのには、その人に合ったやり方がある。そもそも指導に向いてない人もいるからね。


「直るような注意のやり方ってありますよ。ただ頭ごなしに怒れば何かが正せると思っていますか? それは注意ではなく、相手を支配するってことですよ!」


 語気を強める。


 そう、宮ノ下を攻めるこの行為も相手を支配する事だと自覚はしていた。ただし、無意識でこれをやる人間は、必要以上の恐怖を与えてしまうため厄介である。


「何回も言ったのよ」


 だから、それは意味のない怒りをぶちまけただけだろう。論理立てて何が悪いかを説明しない限り、人は納得しないのだ。


「何度言っても直らないから、辞めさせるために陥れようとしたと?」

「そうよ。あんたみたいな若い子には解らないのよ。無能を排除するってのは、仕事を効率良く回す上では重要なことなの」


 たしかに無能を排除するってのは効率重視の社会では最適解ではある。だが、人材を育成するという意味では、無能は宮ノ下の方だ。


「仕事をこなす上では犯罪行為も致し方ないと? へぇー、あなたは気にくわない人間がいれば相手を排除することを厭わないのですね」

「仕方ないじゃない!」


 さっきからこのおばさんは「仕方ない」を連呼している。そうやって自分にも暗示をかけているのだろう。多少は自分の歪みに気付いているのかな?


「あなたの考えが正しいとしましょう。そうなると例えば、わたしがあなたを気にくわないのであれば、あなたに対してどんな犯罪行為も許されることになりますよね?」

「は? そもそもあんた、あの子とは無関係じゃない!」

「無関係? 大切な物をあなたに盗まれましたけど?」

「……」


 やっぱりいじめが絡むと、途端に人は法を犯しているという実感を抱けなくなるのかもしれない。


「あなたはとてもムカつきますね。あ、これは個人的な感想です。けど、こういう心の動きで衝動的に行動することをあなたは許容するんですよね?」

「……」


 容赦なく追い詰める。圧倒的に有利な状況から一方的に断罪するってのは、一歩間違えばいじめに変質する。いや、本人の受け取りようによっては、れっきとしたいじめだ。


「あなたを排除したくなりました。そうですね……ここの旅館だけでなく、この世界から排除って考えも、あなたにとっては正当性があるんですよね」

「……この世界って、あんた何考えてるの?」


 宮ノ下の声が恐怖で震えていた。そうだろう、俺も排除される怖さは知っている。そして俺が発した「世界からの排除」が、どういう意味を持つかも彼女には理解できるだろう。


「……やめて」

「あなたは正しいのでしょう? ムカついたから排除。シンプルですよね」

「……お願い……やめてちょうだい」


 顔色が青ざめていく。彼女の口から必死な懇願の言葉が零れる。不適な言葉を吐いていた彼女は、ようやく後悔の色に染まっていた。


「自分の気にくわない人間をすべて排除できたら、素晴らしい世界が待っているんですかね?」

「……ねぇ、何をする気なの?」


 追い詰めれていく彼女の表情を注意深く観察する。


「あなたの思考をトレースしているだけですよ。いわば、これはあなたの思考の鏡。ご自分が何をされるかは、あなた自身がご存じじゃないんですか?」


 宮ノ下の顔が後悔から恐怖へと歪んでいた。この人はもしかしたら、自分の欲望の為には人殺しさえ容認してしまうのではないかと思えてくる。


 こちらもかなり気を張っていたので、精神がかなり疲弊していた。軽く吐息をこぼし、目の前の彼女から視線を逸らす。


「いやぁぁぁああ!!!」


 脅えたように叫び出す宮ノ下に再び視線を戻すと、彼女はテーブルの上にあったフルーツナイフを取って立ち上がった。そして、その刃がこちらに向く。


「あっちゃん!!!!!」


 かなめの声がすると同時に左肩を押されて横に倒れた。そしてナイフが振り下ろされる場所にはかなめが――。

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