第71話 十七歳 23
『なあなあ、どうしてあんなこと言ったんだ?』
『見合い話なんてそんなになかっただろう? 二件くらいだって知ってるぞ。それも後妻の話とかろくなものなかったじゃないか』
『まさかそんな話を受けるんじゃないよな』
『なあなあ、なんでエドに話をさせなかったんだよ』
「あ~、うるさいわね。クリューには情緒がないの? 泣いている私をそっとしておくとか、見守るとかないわけ?」
ベッドの中でふて寝をしようと思っていたのに、あまりにもクリューが騒がしいのでついつい大声で叱ってしまった。
『あ~、やっと起きた。妖精に情緒なんてあるわけないだろ。そんなことよりエドのことあれで良かったのか? あれは優良物件だと思うぞ』
妖精でも優良物件とかわかるのかな。クリューの言葉に思わず首を傾げる。
『確かに優良物件だけど、エドは貴族だからどうにもならないわよ。それにアネットと一緒になった方がエドのためにはいいのよ』
私だってたくさん考えて決めたのだ。エドにとって、私は足枷にしかならない。
『それはどうかなぁ。エドのためとかアンナが決めることじゃないさ。自分にとっての幸せって他人にはわかんないと思うぞ』
妖精のクリューはたまに年寄りくさいことを言う。実際何歳なのかわからないくらい生きてるみたいで、見た目は子供、中身は大人なんだよね。
クリューの言うように幸せの形は人それぞれだ。私から見たエドの幸せとエドにとっての幸せは違うのかもしれない。
万が一私とエドが一緒になったとして、幸せはどのくらい続くのか。いつかエドは後悔するのではないかとか、そんな考えばかり浮かぶ私の方が変なのかな。
だとしても私はエドに言ったことを後悔しない。これで良かったのだ。
『アンナは頑固だなぁ』
『頑固でもいいの。庶民だって意地があるもの。お情けで一緒になっても上手くいかないわよ』
『え? お情け? エドの気持ちが同情からきていると思っているのか?』
クリューの目がまん丸くなっている。
『それ以外にないでしょ?』
クリューの目は曇っていると思う。私とエドの間に何があると言うのか。
『なんか、エドに同情したくなってきたな』
クリューは男(?)だからエドの味方なのかな。
私がエドの気持ちをわかっていない?
でもエドから言われたのは二年間待ってほしいと言う言葉だけで、好きだとかそう言うことは言われてない。だから元婚約者をぼろ布のように捨てた人になりたくないだけじゃないかなと思っている。
エドは優しいから私を切り捨てることができないだけだ。でも優しさは時には罪だと思う。ついつい期待してしまうから。
どうにもならないってわかっていたのに、二年も待っていた私のように。
『はぁ~』
『ため息ついても、もうエドは帰っては来ないぞ』
クリューってば、そんなことわかってるわよ。
『そのために言ったことだから、それはいいの。ただね、これから私はどうなるのかなって思うとねぇ』
婚約者を失って、周りを見れば相手の決まっている人ばかり。庶民の縁談なんて早い者勝ちみたいなところあるし、やっぱり行かず後家になってこの家にずっといるのかな。
『どうなるって…、アンナは人間なんだからアンナのままで変わらないだろ?』
『そ、そういう意味じゃなくてって、えっ? 妖精は変化したりするの? クリューも大きくなったりするの?』
驚いて尋ねるとニヤッとクリューは笑った。でもどうなるのかは答えはくれなかった。
クリューが大きくなったら、きっとかっこいいに違いないとか、いや妖精だから違うものになるのかなとか空想は広がる。
私はきっと、このまま変化のない毎日を過ごすだけで、一生を終えるのだろうけど生まれ変わったらクリューのような妖精に生まれたいなと思いながら眠りについた。
夢の中で妖精になった私は長生きのクリューと一緒にいろいろなところに行った。誰も私たちに気づかないのが楽しい。
でも悲しいかな。よその国に行きたいって思ってもなぜか行くことができないの。夢はやっぱり夢でしかないのよね~。残念。
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