第59話 十七歳 12

 サラの幼なじみのロックは、彼女のもとに帰って来た。

 約束した通り帰って来た。正直、もう帰ってこないのではないかとみんな思っていた。『待っていないよ』と言っているサラが、本当はずっと彼を待ち続けていることは知っていた。だから私はロックという男にもし会うことがあったら、言いたいことが沢山あったし、身体強化した拳で一撃を食らわせたいとまで考えていた。

 でも実際はどうだろう。病気になるまでサラを探し続け、ついに彼女の前に現れた。瀕死の状態だったけど、ロックは約束を守った。

 もう私にはロックを責めることは出来ない。セネット家のコックに騙されたのは馬鹿だなと思うけど、正直言えばサラが羨ましい。

 サラはロックにとっての自分は幼なじみでしかないようなことを言っていたけど、ロックのサラを見る目にはそれ以上のものがあった。ここまで必死に探していたのだから、きっとサラのことを好きに違いない。


「それでこれからロックさんはどうします? もしかしてまたサラを連れて旅をしながら冒険者を続けるのですか?」


 私は一番気がかりなことを尋ねた。

 サラはきっとロックに付いて行くだろう。そして私は彼女を止めることは出来ない。サラの幸せがロックと一緒にいることだって知っていて、どうして止めることができるだろうか。

 サラはハッとしたようにロックを見た。ロックは安心させるような目でサラを見てから私と目を合わせた。


「いや、もう冒険者は辞めるつもりだ。そのことはずっと考えていて、そのためのお金が欲しくてサラを待たせてまで仕事を引き受けたんだ」


 どうやら危険な冒険者家業から足を洗うためにお金が必要だったようだ。冒険者って職業は危険と隣り合わせだって聞いているから、冒険者を辞めると聞いてサラも私もホッとした。

 それに冒険者を続ける気がないのなら、この街にずっといてくれるかもしれない。


「もう、どうしてそれを言ってくれなかったの? 冒険者を辞めたいだけなら危険なこと引き受けなくても二人で稼げば良かったのに…」


 サラがちょっと睨むような目でロックを見る。そんな可愛い目で睨んでも怖くないと思う。案の定、サラのそんな顔を見てロックの目じりが下がる。


「うん、そうだな。サラを探している間ずっと後悔していた。一緒にいればよかったって」


 なんか甘々な二人だ。このまま私たちもここにいていいのだろうか。


「そうよ。お金なんかより二人でいるほうがよかったわ」


 サラが言うようにお金がいくらあっても二人がバラバラになったのでは幸せにはなれない。でもお金に目がくらんだロックの気持ちもわからないでもない。そのお金があれば、この街で市民権を得ることででき、家を持つことが可能になる。所帯を持とうと考えたら、一番必要なのはやっぱりお金だから。

 

「この何年かサラを探すためにお金を使ってしまったけど、でも家を買えるくらいのお金は残っている。俺とこの街で一緒に暮らしてくれ、サラ」


 おっと、まさかここでプロポーズをするとは思わなかった。もう少しムードとかあるんじゃないかなぁ。サラはともかくロックは埃だらけの身体だし、いつ風呂に入ったのって聞きたいくらい酷い姿だ。

 でもサラにはムードとかロックの状態はどうでも良かったようで、びっくりした目に涙を浮かべてロックが差し伸べた手を取った。


「は、はい。この街で一緒に暮らすわ」


 サラがロックのプロポーズに答えると、私たちは拍手をして喜んだ。特にマリーは感激したようで、涙を流している。フリッツもその横でサラの肩に手を乗せている。

 てっきりこの三人の女性の中で一番初めに結婚するのはマリーだろうと思っていたけど、サラの方が先になりそうだ。それもかなり早いかもしれない。

 こんな所でプロポーズするくらい待てない状態のロックとそれを受け入れているサラを見て、結婚祝いは早めに用意したほうが良さそうかもとどうでもいいことを考えていた。

 まだまだロックには尋ねたいことがあったけど、この調子ではまたにした方が良さそうだ。

 私は肩の上で手を叩いているクリューを見る。妖精であるクリューもサラの幸せを喜んでいた。思えばクリューはずっと私の傍にいてくれている。でもクリューだっていつまでもいてくれるわけではない。サラがもしかしたらロックと共にいなくなるのではないかと思った時、クリューのことが浮かんできて心配になった。

 サラへの不安はなくなったけど、クリューは妖精だから気まぐれだ。挨拶なしでいなくなってしまうかもしれない。不安ならクリューに尋ねたらいいのかもしれないけど、束縛を嫌う妖精には禁句なような気がして何も言えずにいる。

 でも近いうちにきっと私は尋ねるだろう。『ねえ、クリューは私の傍にずっといてくれる?』と。

 クリューの答えはわかっている。きっと………だ。

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