第2話 十三歳 2
すごく泣いて疲れ切って眠ってしまった。
起きたのは妖精に起こされたから。てっきり帰ったと思っていた。
『今日はパーティーがあるんだろ。もう戻ったほうが良い』
妖精は私の腫れた目に手をかざした。それだけで私の顔は普段と変わらない状態に戻る。
「ねえ、私はまだここにいていいのかなぁ」
『僕が決めることじゃないよ。好きにしたらいいさ』
妖精が両親に話すわけではないようだ。
「両親に話さないの?」
『誰もが君みたいに僕たちを見ることができるわけじゃない』
妖精を見ることができて話しもできる私は珍しい存在らしい。
「私、もう少しだけ今の家族と暮らしたいの」
『長引けば長引くほど悲しくなるかもしれないぞ』
「……うん」
『それと庶民になった時のことも考えたほうがいい。まるで違うからな』
妖精のしみじみとした忠告に首を傾げる。
「そんなに違うの?」
『まず風呂に毎日入ったりはしない』
「え? どうして入らないの?」
『家に風呂がないからだ。大衆浴場を利用しているが、お金がかかるから毎日入ったりはしない』
いったいどのくらいで入るのだろう。毎日風呂に入っている私には毎日入らなければどういうことになるのか想像すらできない。
「すごく不安だわ。他には何があるの?」
『そうだなぁ。ご飯は一日二食だ。おやつの時間もない。服は同じものを何日も着る場合もある。貴族みたいに一日に何回も着替えたりはしない』
「ずっと同じ服を着るの? お食事の前に着替えたり、外出の時に着替えたりしないの?」
『そうだ! でも確か寝るときは着替えていたよ。でも寝るときの服は何日も同じのを着ていたんじゃないかな』
ショックでふらふらする。でも妖精の取り換えっ子がなければ、それが当たり前の生活だったのだ。
『あとは…』
「もういいわ。これ以上聞いても今はどうにもできないもの」
『じゃあ、頑張れよ』
「待って! どこに行くの? まさかこのままいなくなっちゃうの?」
『……えっと、僕たちは一か所にとどまったりしないから』
「嘘、本で読んだことあるわ。妖精と人間が契約を結んで一緒にいる話よ」
『あれは物語だけだよ。よほどのことがなければ契約しない。僕たちは気まぐれだから契約しても嫌になれば相手を殺すから…』
「殺す?」
『直接は殺したりはしないよ。魔物が出る森に連れ出して死んでもらって契約を破棄するんだ』
「そうなの? じゃあ私と一緒にいてくれないの?」
『どうして僕と一緒にいたいの? 僕がいないほうがいいと思うよ。君が妖精の取り換えで入れ替わっていることを知っているのは僕ともう一人の妖精だけなんだから』
「でも一緒にいてほしいの。それに庶民の生活をもっと教えてほしいの」
『…そうだなぁ。君が僕を捕まえることが出来たら一緒にいてあげてもいいよ』
追いかけっこは楽しかった。妖精には羽があるから飛んで逃げればそれで終わるのに私の周りを飛んでいる。だから私も魔法は使わない。まあ大した魔法は使えないんだけど。
「…はぁ、はぁ…はぁ」
こんなに走ったのは初めてだ。
『おい、大丈夫か?』
足が絡まって転んだ私を見る妖精の目は心配そうだ。私は覗き込んでくる妖精を必死で捕まえる。
「やったー、捕まえた!」
『えー! なんで捕まえることが出来るの?』
びっくりした目で私を見る妖精は目をぱちぱちしていた。
普通の人間には妖精を捕まえることが出来ないのだと知ったのはそれからしばらくしてからだった。
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