第7話


(そう言えば神様の名前ってなんだったかな。名前がわからなくても大丈夫なのかな)


 豪華絢爛な建物に圧倒された理玖はコツンコツンと鳴る足音に気を使いながら進んでいた。とにかく真っすぐ歩いていればどうにかなるだろうと考えていた。

 一番大きな扉をそっと開ける。誰もいなかった。


(どうしたものか。出直した方が良いのか?)



「遅かったではないか。待ちくたびれだぞ」


 突然、真っ白い空間にあの神様と自分だけになった。周りを見渡すが先ほどの豪華絢爛な部屋とは違っている。あっという間に違う空間に呼ばれたようだ。


「神様、これはどういうことですか。何故私の身体が女になっているのですか?」


 待たされたなどと文句を言う神様を無視して、理玖の方が尋ねる。こういうことは勢いが肝心だ。とにかく早く男の身体に戻りたい。


「うむ、二人同時に作ったので、こんがらがったようだ。二人には申し訳ない事をした」

「こ、こんがらがった?」

「私もはじめてのことで戸惑っておる」


 威張って言うことではないと思う。

 まあ、いい。ここで神様に会えたのだから、元通りにしてもらえばいいことだ。


「うむ、それはできない」


 まだ何も言っていないのに神様が不穏なことをおっしゃる。


「まさか、考えていることがわかるのですか?」


 理玖は頭の中で考えてることに返事を返されて戸惑う。


「神だからな」


 またもや威張っている。だがそんなことは今はどうでもいいことだ。


「できないとはどういうことですか。まさかこのまま女として生きろとでもいうのですか?」

「うむ、それが一番簡単だが、嫌だと言うのでなあ」


 どうやら、須賀花奈ともう話しているようだった。あっちも男の身体になっていて文句を言ったのだろう。


「当たり前ではないですか。早くもとに戻してください」

「うむ、須賀花奈にも言ったのだが、この世界では私の力は使えないのだ。こうして話をすることは出来るが、そなたらを入れ替えるのはちと難しい」

「ええっ! ではやはり一生このままということですか?」


 絶望で真っ暗になった。いっそ異世界転生なら女になっても仕方がないと我慢もできたかもしれないが、この年まで男として生きて、今さら女として生きるのは辛いものがある。


「いや、一つだけ手はある。というか、これしかないし、須賀花奈が承諾したから井端理玖に拒否権はない。君は須賀花奈に責任があるだろう。君が何もしなければ彼女は死ぬことはなかったのだからな」


 神様にいわれるまでもなく、そのことには責任を感じている。助けるつもりが、殺してしまったのだから謝ったところで許されないことだ。


「それで俺は何をすればいいのですか?」

「この世界でも私が唯一力を使える神殿がある」


 なんだ、それだったらそんな風にもったいぶって言わなくても、そこに行けばいいだけの話じゃないかと理玖は思った。


「ふっ、甘いな。そこは神の島リーンと呼ばれているのだが、この国からはかなり遠い。そこまでは自力で来てもらわなければならない」

「そこは魔法で一瞬でいけばいいのではないですか?」

「力は使えんと言ったのを聞いてなかったのか」


 そう言えば言ってたな。だがそれなら自分の魔法があった。あれだけいろいろな魔法使えるのだから転移魔法とか使えないのだろうか。


「魔法初心者の考えそうなことだ。転移魔法というのはそう簡単なものではない。その場所に強い思い入れがないと、とんでもないところに飛ばされるぞ。それこそ一瞬で死んでしまうこともあり得る」


 なるほど。魔法のことはよくわからないので、神様の言うことは聞いておいた方が良さそうだ。だがそうなると自力でその場所まで行かなければならないと言うことだ。


「遠いってどのくらいですか?」

「普通に旅をして三か月くらいはかかるだろう」

「そ、そんなに? それだと旅費もかかるのではないですか?」

「それが一番の問題だろう。乗合馬車と船を使わなければ日数はもっとかかる。旅費を稼ぎながらの旅になるだろう」

「せめて旅費くらいはもらえないのですか?」

「言ったであろう。力を使えないと。お主らには少し多めにお金を渡してあるからそれで何とかするしかなかろう」

「旅って危険はないんでしょうね」

「危険だらけだが、魔法も渡してあるし大丈夫であろう」


 完全に他人事だ。


「あっ、あの魔法の数は何ですか。それにAって結構強くないですか? 冒険者ギルドで登録するときに注目されるのとか嫌ですよ」

「冒険者ギルドでは鑑定はしないから大丈夫だ。それに魔法はAにしていて正解だっただろう。初心者だと旅に出るまで結構かかってしまうことになっただろう」


 確かにそうだけど、なんか納得したくないと理玖は考えていた。


「須賀さんもそこに向かうのですね。大丈夫でしょうか」

「お主と同じほどの魔法が使えるから、大丈夫であろう。それにある意味男の身体で良かった。変な危険は回避できるからな」

「それって俺はどうなるんだよ」

「まあ、剣の腕もありそうだから、ちょっかいかけるような奴は倒せばよい。それと須賀花奈から伝言だ」

「伝言?」

「風呂に入るときも着替えの時も目を瞑ってすること、だそうだ」

「はぁ?」


 ニヤニヤと笑う神様がちょっとだけうざい。




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